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きみのためにできること②

 その時、朔月の携帯電話が着信を知らせるために振動した。画面に表示された名前を見て、朔月は席を立った。養母に聞かせたくないので、病院の外へと出る。 「……もしもし」 『調べていた件について、結果が出たので報告しようかと思いまして。今、大丈夫ですか?』  年齢不詳の低い男の声が耳に押し当てた携帯から流れてくる。  彼は朔月が冬音に紹介してもらった情報屋だ。その筋では有名な人間らしく、最初は王家の宝を探すために朔月からコンタクトを取り、色々な話をする中で、朔月の中に芽生えた養父母に対する不信感を見抜かれた。彼は「何なら調べますよ」と軽い調子で言って、朔月も軽い気持ちで頼んだのだ。そして今、その結果が出たという。 「大丈夫です。話してください」 『結論から言います。神牙夫妻は貴方を騙している。とある元看護師が、夫妻から貴方と鈴真さんを入れ替えるように指示されたと白状しました』  やはり、そうなのか。朔月は特に驚かなかった。最初から、朔月は夫妻のことがあまり好きではなかった。いつも優しいのに、たまに獲物を狙う獣のような獰猛な瞳で朔月を見ていたからだ。だから、朔月が夫妻に心を開くことはなかった。  しかし、話はそれで終わりではなかった。 『あと、鈴真さんの母親ですけど。鈴真さんを産んで退院してすぐに行方不明になっていますが、おそらく神牙夫妻によって殺されています。夫妻に彼女を始末するよう指示された殺し屋が吐きました』 「──」  朔月はしばらく言葉を失った。携帯を持つ手が震え、喉がからからに渇く。 「……どうして、殺す必要が?」 『貴方と鈴真さんが入れ替わっていることに気付く可能性があるからでしょう。それに、夫妻はなんとしてでも一宮の血を引く貴方が欲しかった。しかし母親がいれば貴方を手に入れることができなくなる。全て、貴方を孤立させて養子として自分達のものにするためでしょうね』  そんなことのために、自分と鈴真の人生をめちゃくちゃにしたというのか。鈴真だって、母親がいればここまで傷つくこともなかっただろうに。  ──許さない。自分のことはどうでもいいが、鈴真を傷つけ、彼から母親を奪ったあの夫妻を、許すわけにはいかない、と思った。 「……教えてくださってありがとうございます。助かりました」 『それで、これからどうするつもりですか? ちゃんと仕事した分の金は支払ってくださいよ?』 「わかっています」  そう言って、朔月は通話を切った。  これからどうするか。普通に問いただしたところでしらばっくれるだけだろう。なら、自分も腹を括らなければいけない。  その時、再び携帯電話が震えた。公衆電話からだ。鈴真かもしれない、と思ったが、朔月は電話には出ず、携帯をポケットにしまった。  しばらく鈴真と距離を置こうと思った。これから自分がすることを、鈴真には知られたくない。病院に来るまでに鈴真に事情を説明しておいて欲しいと春音に頼んだし、鈴真の身に何かあれば知らせるようにと冬音にも頼んである。  朔月は病院内へと引き返し、養母のもとに戻った。 「何を話していたの?」  警戒する養母の顔は、真実を知ったせいかいつもよりも醜く歪んで見えた。 「友達と話していただけです。それよりも」  朔月は意識して笑みをつくり、養母に向き直った。 「縁談の話、お受けします」  鈴真を守るため、鈴真のそばにいるためなら、どんなことだってする。

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