105 / 121

きみのためにできること③

 それから朔月は情報屋に頼んで夫妻の罪の証拠集めを行った。全てが終わったら自分が神牙家を継ぐから、金の支払いはその時まで待って欲しいと、我ながら無理のある頼み事をしたが、情報屋はそれを受け入れた。  彼曰く、老い先短い夫妻よりもこれから化ける可能性のある朔月についたほうがいいと判断したから、らしい。あとで冬音から聞いたことだが、彼は根っからのギャンブル狂だということだった。  翌日、養母は早くもお見合い相手との顔合わせの席を用意した。養父の容態が落ち着いた途端にお見合いとは、養母もかなり焦っているようだ。  お見合い相手の美月は親族の集まりなどで顔を見たことはあるが、一度も話したことがなく、朔月を見て緊張した面持ちで会釈した。彼女に恨みはないが、養父母の罪を暴くために犠牲になってもらうことにした。  顔合わせが終わり、朔月は美月の父に誘われて彼女の家へと足を運んだ。その間養母は病院に戻り、朔月は美月の家のリビングで彼女の家族と談笑してから、美月に誘われて部屋に入った。  いくらいずれ結婚するとはいえ、娘の部屋に男を上がらせてふたりきりにするとは、一体何を考えているのだろうか。それとも既成事実を作らせてこの縁談から逃げられないようにするためか。どちらにしろ、朔月がやることはひとつだ。  部屋に入ると、美月の母が飲み物を持ってきた。グラスの中に、氷とともに麦茶が入っている。美月の母が出ていったあと、朔月は美月の目を盗んで彼女の分のグラスに睡眠薬を入れた。粉状の、無味無臭で水にすぐに溶けるそれは、情報屋からもらったその筋の者がよく使う代物らしい。美月は全く疑った様子もなく、麦茶を飲み干した。 「朔月さん……」  しばらく当たり障りのない会話をしたあと、美月が朔月の肩にしなだれかかってきた。大人しい娘だと思っていたが、やはり神牙家の人間なだけあって自らの欲望に忠実だ。  朔月は首を傾けて美月にキスをした。触れるだけのつもりだったが、彼女に舌を入れられそうになり、やんわりとそれを制した。 「朔月さん?」 「続きはベッドでしませんか」  言いながら、笑顔が引き攣っていないか心配になるくらいに、彼女とのキスに嫌悪感を催している自分に気付いた。  思えば、鈴真以外の誰かとキスしたのは初めての経験だった。もちろんそれ以上のことも、鈴真としかしていない。だから、ほかの人間との接触がこんなに気持ち悪いものだなんて思わなかった。  美月は頬を染めて嬉しそうに笑い、ベッドに横になった。だが、朔月が何かする前に眠そうに目を擦り、すぐにまぶたが落ちた。  美月が眠っているのを確認し、彼女が着ている服を脱がす。幸い、家に戻ってすぐに彼女は着物から私服に着替えていた。全て脱がし終わって、携帯を取り出すと、朔月は躊躇うことなく彼女の身体を写真に撮り、そのデータを情報屋に送った。  しばらくして情報屋からメールが届き、それを確認してからバッグの中に忍ばせておいたノートパソコンを開く。これを持ってきたことがバレないかヒヤヒヤしたが、何とかなってよかった。画面を確認し、電源を入れたままパソコンを閉じる。そして、美月を放置したまま一階へと向かった。

ともだちにシェアしよう!