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きみのためにできること④
「ただいま。養母さん」
何食わぬ顔で神牙の屋敷に戻ると、リビングで寛いでいた養母が駆け寄ってきた。
「あら、泊まっていくのかと思ったいたのに」
「そういうわけにはいきませんよ。僕はまだ未成年ですし」
それもそうね、と笑いながら、いつものようにお茶の支度をするためにキッチンへと向かう。朔月はそのあとを追った。
「疲れたでしょう? ゆっくりしていていいわよ」
そう言いながら、ティーポットに茶葉を入れる。その後ろに立った朔月は、彼女の首筋に静かにナイフを突きつけた。
「──朔月?」
異変に気付いた養母が、手にしていたカップを落とす。派手な音とともに足元にカップが叩きつけられ、破片が飛び散る。
「朔月……なんの、つもり? 冗談はやめてちょうだい……」
「鈴の母親を殺したという話は本当ですか」
朔月は淡々と聞きながら、突きつけたナイフを握る指に力を込めた。
「なにを言っているのか……」
誤魔化そうとする養母の耳元に、情報屋から入手したICレコーダーを近付ける。ボタンを押すと、殺し屋の男との会話が流れ出した。
『そう、だから俺らは神牙家の夫妻に頼まれて、あのケモノの女を殺して海に沈めた。でも証拠もないし、今更罪に問えないだろ?』
そこで流れていた音声を切る。養母は驚愕に目を見開きつつ、朔月を振り返った。
「ち、違うわ……こんなの全部デタラメよ。朔月、こんな誰とも知れない男の言うことよりも、お養母さんの言葉を信じるわよね? だって貴方は優しくて、いい子だもの。ね? そうでしょう?」
「……いい子? 僕が?」
朔月ははっ、と乾いた笑いを漏らして養母を冷たく見据えた。
「僕がいい子なわけないだろ。さっきだって、分家の連中にあんた達の悪事を吐かせるために娘を利用したんだからな」
分家、と聞いて養母の顔がますます強ばる。朔月は再びICレコーダーのボタンを押した。
『ああ、そうだ! 本家の当主達は王家の宝欲しさにケモノの女を殺したと言ってた! 君とケモノの息子を入れ替えたのもあのふたりだ! 知っていることはこれで全部だ! だから、頼むからその写真を消してくれ……!』
養母は身体の力が抜けたようにその場に崩れ落ちた。
「娘の裸の写真をネットにばらまいたと嘘をついたら、簡単に吐いてくれたよ。協力者にそっち系のサイトの偽画面まで作らせたから、結構高くついたけど」
美月に恨みはなかったので、情報屋が作った偽サイトの画面に彼女の写真を添えたものをノートパソコンに映し、彼女の両親に見せて「早く消さないとあっという間に広まりますよ」と脅した。当然、彼女の写真はネットには一切アップしていない。それでも成果は充分すぎるほどだった。
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