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きみのためにできること⑥

「朔月……! ほんとにいいのか?」  出てきた朔月に冬音が駆け寄る。朔月は頷いた。 「ああ。協力してくれて助かったよ。ありがとう、冬音」 「それは別にいいけどさ……俺も、お前には借りがあるし……」  いつも強気な冬音にしては珍しく、語尾を濁した。そのことが少し気にかかったが、冬音の父の指示で部下達が屋敷に入っていくのを見て、改めて屋敷を見上げた。 (これで全て終わった……)  分家の連中を束ねていた美月の父も、今回の件で大人しくなるだろう。本当は全て冬音の父に任せてもよかったのだが、どうしても自分でケリをつけたかった。たとえ自分の手を汚してでも。それが夫妻の息子として、最後に自分ができることだと思ったからだ。  だが、朔月は神牙家の当主の座になど興味はない。大学を卒業してどこかに就職するまでは神牙家にいるつもりだが、自活できるようになったら神牙家を出る、と美月の父にも言ってある。  もうこの家に関わるのは御免だった。さっさと卒業して鈴真とともにどこか空気の綺麗な田舎にでも引っ越して、ふたりきりでひっそりと暮らしたい。  朔月はバッグの中から古いペンダントを取り出した。チェーンの先にぶら下がっているロケットを開くと、中に美しいケモノの女性と年若い黒髪の青年が映っている写真が貼り付けられていた。鈴真の両親の写真だ。  鈴真を引き取る際に一宮から送られてきた彼の荷物の中に入っていたもので、鈴真が自分の出自を受け入れられるようになったら渡そうと思っていた。一宮の両親が何を思ってこれを自分に託したのかはわからないが、もしかしたら鈴真を売り飛ばすつもりだったという話は朔月を一宮家から遠ざけるために神牙夫妻がついた嘘で、一宮の両親も本当はどこかで鈴真のことを大切に思う気持ちがあったのではないだろうか。そうであればいいと、今となっては思うのだ。  寮に帰ったら、鈴真にこれを渡そう。そして、もう一度彼に自分の気持ちを告白する。神牙夫妻の件は、鈴真にはしばらく黙っておこうと思った。まだ精神が不安定な鈴真を傷つけるような真似はしたくない。  そんなことを思いながら、朔月は足早に学園へと向かった。

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