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ルール違反①

 タクシーで学園へ向かう途中、ぽつぽつという音とともに窓ガラスに雨粒が落ちてきた。そのままあっという間に土砂降りになり、朔月は顔をしかめる。 傘を持ってくればよかった、と思いながら窓の外を流れる景色を眺めていると、車が学園の正門前に停車した。  タクシーを降りた朔月は雨の中寮まで走った。寮の玄関に辿り着き、濡れた服をハンカチで拭いてから中へと入る。事前に遅く帰ることを知らせていたので、寮にはすんなりと入ることができた。寮母と一言二言言葉を交わして、階段を上がる。  冬音はもう少し父と話してから帰ると言っていたので、一緒ではない。ふと別れ際に見た彼の申し訳なさそうな顔を思い出し、何やら嫌な予感がした。  足早に廊下を進み、自室のドアを開くと中は真っ暗だった。 「……鈴?」  明かりを点けて中を確認すると、朔月のベッドの上でうずくまっている鈴真の姿が目に入る。 「どうしたの、こんな時間に電気も点けず……」  声をかけても、鈴真は無反応だった。  鈴真が雨の夜が苦手なことを思い出した朔月は、俯く彼の背中をゆっくり撫でる。 「そうか……雨の夜は苦手だもんね。ひとりにしてごめんね。もう大丈夫だよ」  やはり連絡くらい入れておくべきだったかもしれない、と思いつつ鈴真を抱き寄せた。だが、鈴真は突然朔月の身体を突き飛ばし、全身から警戒心を滲ませて朔月を見据えた。朔月はその時初めて、鈴真の頬が濡れていることに気付いた。 「……お前、今までどこにいたんだ」  朔月は鈴真の問いにどう答えるべきか迷った。本当のことはまだ知られたくない。かと言って嘘をつくのも嫌で、仕方なく曖昧に濁した「事実」を口にした。 「縁談がまとまったから、相手の女性の家にいた。養父さんの容態も落ち着いたみたいだし」  鈴真は縁談の話をしても驚いた様子はなく、落ち着いていた。やはり朔月が誰と結婚しようが、興味がないのだろう。

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