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溢れる想い②

 朔月は気分を落ち着けようと長く息を吐いてから、今まで抱えていた気持ちを口にした。 「……君のことがわからない。どうして君があんなに怒ったのか、わからないんだ……僕が別の女性といたことを怒っているのかと思ったけど、そんなはずない。君が僕のことを愛していないことを僕は知ってる。だって、まだ僕は君の隣に並べるくらい立派な人間じゃないから」  鈴真は朔月の言葉を黙って聞いていた。 「僕は君を傷つけてばかりいる。それくらい僕にだってわかる。自分が歪んでいることも、知ってる。でも、君といると君に触れたい気持ちを抑えられないし、君に近付く人間に対する嫉妬心も抑えられない。そのことが君を傷つけるとわかっていても……止められない。立派な人間になるなんて言って、結局僕は自分のことしか考えてない。こんなんじゃ駄目だって思うのに……君が離れていくのは当たり前のことなのに……」  今まで鈴真には決して聞かせないようにしてきた弱音を吐き、弱い自分を晒している。そのことがこんなに恐ろしいだなんて知らなかった。鈴真はこんな自分に呆れているに違いない。だけど、一度こぼれ落ちた言葉は止められなかった。 「嫌なんだ……君を失いたくない。誰かに愛されたいなんて思ったことはないのに、君にだけは愛されたい。僕が君に対して想うのと同じように、僕なしじゃ生きられなくなって欲しい。でも……君のそばにいられるなら、恋人じゃなくても構わないから……従者としてでもいいから……僕を好きになって……」  最後の言葉が、自分の本当の願いだと朔月は思う。恋人になりたいなんて言わないから、ただの主従関係のままでいいから──自分のことを好きになって欲しい。ほんの少しでいい。自分のことを見て欲しい。そうしたら、もうこれ以上何も望まないから。ひとりぼっちで死んだっていいから。  鈴真は、何も答えなかった。何を口にすればいいのか迷っているように見えた。やはり困らせてしまったようだ。 「……ごめんね。変なこと言って。今言ったことは忘れてくれていいから」  気力を振り絞って笑みをつくり、吐き出した弱音を覆い隠す。気持ちを隠して笑うのは得意だ。だから、大丈夫。そう言い聞かせて、できるだけ傷付いていない素振りを装い、ドアに向かって歩き出す。

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