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溢れる想い③
「朔月!」
その時、突然鈴真が朔月の背に抱きついてきた。朔月は息を呑み、動きを止める。
「行くな……」
か細い、消え入りそうな声で呟き、朔月の身体をきつく抱きしめる。知らず、朔月の心臓の音が激しく鳴り響く。
「いくらでも傷つけていい。だから、そばにいろ……どこにも行くな。僕はお前が欲しい。僕のものになれ……」
それは、幼い頃にずっと鈴真に言われたいと願っていた言葉。そばにいろと、ただ一言命じて欲しかった。お前がそばにいるから僕は幸せなんだと、そう言って微笑みかける鈴真の姿を何度も思い描いてきた。
「朔月……朔月」
幾度となく名前を呼ばれる。その声に込められた鈴真の想いが、触れている箇所からじわじわと優しく広がっていく。
「お前がそばにいてくれるなら、死んだっていい。だから……」
続きを聞くことなく、朔月は鈴真の唇を塞いでいた。愛しさをぶつけるように激しく鈴真を求める。
「ん……っ、さ、つき……」
鈴真も朔月の口付けに懸命に応えながら、背中にしがみつく。彼も自分を求めているのがわかって、朔月はこの瞬間が永遠に続けばいいとすら思った。
「……ずっと、同じことを思ってた」
唇を離し、まつげが当たりそうなほど近くにある鈴真の瞳をじっと見つめる。彼の瞳は涙をたたえてゆらゆらと揺れていた。
「いくらでも傷つけていい。君がいつか笑ってくれるなら、死んだっていい。そう思ってた」
幼い頃、鈴真に首を絞められながら思ったことを、初めて鈴真に話した。その気持ちの名前を、朔月はとっくに知っていた。
「僕はこんな気持ちを愛だって思ってた。ねぇ鈴……君はどう思う?」
鈴真の青空みたいな瞳から、天気雨みたいに涙の雨がぽろぽろと落ちる。
「僕は……愛だと思う。僕はお前を、愛してるんだと思う」
ああ、やっと聞けた。簡単なことだったんだ。悩む必要なんかなかったんだ。最初から、鈴真が自分を好きだと思って彼の話を聞いていれば、どうして彼が怒ったかなんてすぐにわかったのに。
気がつくと、朔月は自然に笑っていた。作り笑いではない、心から嬉しいと感じた時に身体の内側から溢れてくるような、そんな笑い方だったように思う。
「好きだよ……鈴。ずっと君のそばにいる。もう二度と離れない。君の中の僕への愛を、信じる」
それは、朔月が誰にも愛されない無価値な自分を愛することができた瞬間だった。
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