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溢れる想い④

 会えなかった時間を埋めるようにお互いを求め合ったふたりは、行為の余韻に浸りながらベッドに横になった。  隣で眠る鈴真の髪を撫でながら、彼の首筋にできた真新しい引っ掻き傷を眺める。おそらく鈴真が自分でつけたのだろう。鈴真がどんな思いでこの傷をつけたのかと思うと、自分の言動の愚かさに反吐が出る。  その時、ドアがノックされて春音と冬音が入ってきた。 「着替え持ってきたぞ」  冬音の手にはふたり分の着替えが入った紙袋がぶら下がっている。先程、こっそり持ち込んでいた携帯電話で、同じくこっそり携帯電話を所持している冬音に連絡し、着替えを持ってくるように頼んだのだ。 「ありがとう。そこに置いておいて」  朔月が礼を言うと、ふたりは居心地が悪そうに視線をそらした。寝ている鈴真を起こさないように気をつけながら、ふたりに向き直る。 「君達だよね? 鈴に余計なこと吹き込んだの」  朔月の冷たい視線に、春音がぎくりと肩を竦ませる。 「ごめんなさい……あたし、そいつが朔月に相応しい人間なのかどうか、試したかったの。だから、お見合いのこと話して、朔月がお見合い相手といるところを見せた。これで諦めるならその程度なんだと思って……」 「そんなこと、僕は頼んでない。僕が一方的に鈴を好きなだけで、鈴を苦しめるのを望んでないことくらいわかるだろ」  朔月が厳しい表情でそう言うと、春音は泣きそうな顔で黙り込んだ。それを見た冬音が口を挟む。 「わかってる。今回のことは俺らが悪い。でも、俺らもお前が心配だったんだよ。友達だから」  友達、という言葉に驚く。まさか彼らが自分のことをそんなふうに思っていたとは、知らなかった。今まで友達などいらないと思ってきたが、ふたりの真摯な顔を見ていたら毒気が削がれた。 「……もういいよ。心配かけて悪かった。でも、もう大丈夫だから」  朔月が表情を緩めると、ふたりはほっとしたように息を吐いた。  ふたりが出て行ったあと、朔月はズボンの尻ポケットに入れっぱなしにしていたペンダントを取り出す。それを眠る鈴真の首に慎重にかけてやり、彼の母親のことはもう少し黙っておこう、と思った。 「鈴」  愛おしそうに名前を呼び、彼が目覚めるのを待つ。  いつか夢で会った鈴真に、きっともうすぐ会える。いつまでも、彼のそばでその時を待とう。

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