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ペンダント①

《side 鈴真》  鈴真と朔月はお互いを激しく求め合ったあと、ベッドの上で抱き合いながら微睡みの中にいた。心地よい疲労感に包まれて朔月の胸に頬を寄せる。一定のリズムで刻まれる彼の鼓動が伝わり、その音に酷く安心した。 「鈴」  名前を呼ばれて目を開けると、首から胸にかけてひやりとした感触がした。思わず手で触ってみる。 「……これ……」  鈴真の首に、繊細な装飾が施された丸い形のトップがついたペンダントがかけられていた。朔月を見ると、彼は優しい顔で微笑んでいる。 「開けてみて」  言われてトップに目をやると、それは開けられるようになっているらしく、上と下の分かれ目を指で摘んで引っ張ると、簡単に開いた。  中に、小さな写真らしきものが貼りつけられている。そこには、白銀の髪に青い瞳の美しいケモノの女性と、今の鈴真と同世代の黒髪の青年が映っていた。ふたりとも、幸せそうに笑っている。 「鈴のご両親だよ。君を引き取った時、一宮から送られてきた荷物の中に入ってたんだ」  鈴真は言葉を失って写真に見入った。父の顔を見たのは初めてだが、母の姿は幼い頃に一度写真で目にしたことがある。あの時はまだ本当の母親だなんて知らなかったから、あの写真はすぐに捨ててしまったけれど、こうして改めて見ると、なんとも言えない複雑な感情が胸に去来した。そして一宮の両親が鈴真にこれを持たせたという事実も、にわかには信じられないことだった。  なぜ、母は自分を捨てたのだろう。そして今、どこで何をしているのか。  今まで一宮の両親のことで頭がいっぱいで考えもしなかったが、朔月と入れ替わっていたとはいえ、実質鈴真は実の母親からも捨てられているのだ。 「何か事情があったんだと思う。君のお母さんは、君を捨てたわけじゃない」  朔月が何かを悟ったように言った。 「どうしてわかるんだ?」 「幸せそうに笑ってるから。ふたりは本当に愛し合ってたんだ。鈴は、望まれて生まれてきた子だよ」  朔月の言葉には、妙な説得力があった。まるで見てきたかのようにはっきりと断言するので、鈴真も不思議と彼の言葉を受け入れることができた。  それに、もし母に捨てられたのが事実だったとしても、それほど落ち込んでいない自分がいる。それはきっと、鈴真が一宮の両親との確執を乗り越えたからだろう。  鈴真はもう泣いているだけの子供ではない。自分には朔月がいてくれる。親に愛されなかった過去は変えられないけれど、自分はもうひとりぼっちではない。朔月の存在が、鈴真の心を強くさせたのだ。

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