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約束のくちづけ①
翌日、教室へ向かった鈴真は早速駆け寄ってきた夕桜に昨日のことを話した。
「そうだったんだ……大変だったね」
夕桜は心配げに鈴真を見ている。彼の横に立つ灰牙はというと、いつも通り眠そうに目を細めていた。
「ああ。でも、もう大丈夫だ。ちゃんと自分の気持ちは伝えたから」
「ほんと? じゃあやっと両想いになったんだ! おめでとう!」
夕桜は自分のことみたいに喜び、祝福してくれた。それが嬉しくて、鈴真はまた笑う。
「ありがとう。お前達と友達になれてよかった」
「鈴真くん……えへへ」
初めて友達という言葉を口にして、鈴真はもう自分がひとりではないことを改めて知った。
先程からずっと黙っている灰牙に目をやると、彼はなんとも言えない複雑な表情をしていた。
「妹が巣立っていった気分」
ぼそっとそう言って、鈴真の髪をぐしゃぐしゃとかき回し、自分の席に戻っていく。
「まだ妹に似てるとか思ってたのか……」
「複雑な兄心なんだよ。灰牙、シスコンだから」
乱された髪を直していると、夕桜が何かを悟ったようにうんうんと頷く。
ふと窓の外を見ると、抜けるような青空が広がっていた。今は、この空を素直に綺麗だと思える。そのことがたまらなく嬉しくて、鈴真は目を細めた。
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