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約束のくちづけ②
放課後、迎えに来た朔月とともに蒼華宮へ向かった。
「よかった。ふたりとも、やっと両想いになったのか」
風羽が夕桜みたいなことを言って、鈴真に微笑みかける。鈴真は照れくさそうに笑いながら、風羽に頭を下げた。
「おふたりとも、昨日はお世話になりました。本当に感謝しています」
「礼なんかいらないよ。俺達は友人だ。そうだろう?」
風羽の優しい言葉に、鈴真は彼がくれた手紙の内容を思い出す。鈴真が悩んでいると知ると、いつも励ましの言葉を書いてくれていた。
「ありがとう……風羽」
もらった手紙の分の気持ちも、ありがとうの言葉に込めた。風羽も詩雨も、慈しむような眼差しで鈴真を見つめている。詩雨も本気で鈴真を心配してくれていたようだ。彼が風羽の恋人でよかったと思った。
「それと……ふたりにも言いたいことがある」
鈴真が春音と冬音に向き直ると、春音は不機嫌そうに眉を寄せ、冬音はソファに横たわったままこちらに目線だけ向けた。
「な……なによ。文句があるなら言いなさいよ」
春音は朔月のほうをちらちらと気にしながら、ソファにふんぞり返った。朔月は黙って鈴真を見守っている。
「ふたりの言う通り、僕は朔月に相応しい人間じゃないと思う。でも、いつか相応しい人間になれるように努力する。種族間の格差なんて関係ないってことを証明する。だから、見ていて欲しい」
鈴真ははっきりと自分の想いを口にした。それは鈴真にとってとても勇気のいることだったが、ふたりには言っておかなければいけないと思った。
春音は一瞬虚をつかれたように目を見開き、やがてふん、と鼻を鳴らしていつものように鈴真を挑発した。
「やれるもんならやってみなさいよ」
その言葉は春音なりの激励だと思った。都合よく考えすぎかもしれないけれど、そう思うことにした。
「いいねぇ、強気な猫ちゃんも可愛い。朔月に飽きたら俺のとこにおいでよ」
しかし、冬音は相変わらず軽かった。鈴真が何か言う前に、朔月がきらきらした笑顔で牽制する。
「冬音。それ以上口にすると君の大事なモノを二度と使えないようにするよ?」
「はーい。黙りまーす」
ふたりのやりとりが可笑しくて、鈴真は声を上げて笑った。
それからしばらくの間、紅茶を飲みながらみんなで談笑した。楽しい時間はあっという間に過ぎ、広間に夕陽が射し込む頃、昨日あまり寝ていない鈴真は眠気を堪えながら目を擦った。
「鈴、眠い? 寝ていいよ」
隣に座る朔月が鈴真の頭を自分の肩にもたれかからせる。髪を優しく撫でられて、鈴真は眠りへと落ちていった。
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