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第6話

 もう? 下着がびちょびちょだ。  おかしい。こんなに強いヒートは久しぶりだ。  薬を飲んだのに、全然抑制されていない。むしろ、強い衝動が抑えられない。苦しくて、何度も自慰行為をしてしまう。  布団の中で、着替えなくちゃいけないと思いつつも、疼いてたまらない後ろの孔を弄りたくなる。  もう、なんで……こんな身体、嫌なのに。  枕元でスマホが震えだす。電話の相手を確認すれば、職場の上司からだった。 「もしもし?」 『ごめんね。ヒート中のつらいときに』 「いえ、なにか?」 『神保様って普段、何を食べてるのか聞いてほしいって連絡があって。桜坂くんの代わりに入った子が、神保様が全く口にしてくれないって参っちゃって。掃除も洗濯もしなくていい、って言われたって』 「……ええ?」  なんで? 僕の時は何も言わないのに。  ご飯だって食べてるよ。 「これといって特別なことはしてないんですけど。肉じゃがとか、筑前煮とか……和食率が高めで作っているかと」 『ありがとう。伝えてみる』 「はい。よろしくお願いします」  あの人……なに、考えてるんだろう。  食べない? おかしい。毎日、しっかり食べて、皿まで洗ってキッチンに置いてあるのに。  ピンポーンと今度はインターフォンが鳴った。  ヒートになると、外出できない。ネットで水分と食材を頼んで、一週間の発情期をなんとか乗り越えている。  きっとそろそろ底がつくお茶の追加分が届いたのだろう。  僕は起き上がって、相手を確認にせずにドアを開けた。ほわっと香ってくる匂いに、僕は今までにない強い衝動に襲われて顔を上げた。  そこにはスーツ姿の神保冬馬が立っている。 「ちょ……なんで」 「匂いが! ドア、閉めるから」  神保が僕を押して、玄関に入ってくるとドアを閉めて鍵までしっかりと施錠していた。 「どう、して。ここに……」 「一昨日から夕食の味が違うから、会社に問い合わせた。一週間の休暇が申請されてるって言うから、ヒートだろうと思って」 「わかってるなら、ここに来ちゃ……いけないって理解できるでしょう」  寂しそうに神保は微笑むと、僕の気持ちを無視して部屋にあがった。 「ねえ、ちょっと! すぐに帰って。だめだ、ここにいたら、あんた……すぐに頭がおかしくなって……」  望まないセックスをしちゃだめだ。この人の人生に傷がついてしまう。  よりよい遺伝子を残すために、マッチングして相手を探しているんだ。僕の発情期で誘発されて、欲望のままに身体を重ねたら、後悔させてしまう。  真面目なアルファだ。責任取って……とか言い出しかねないから。 「弟の気持ちを……今、理解した」  彼がぼそっと呟いて、不敵な笑みを残した。神保の頬に冷や汗が流れ落ちていく。眉間に皺を寄せ、己の欲望と戦っているようだ。 「早く出て行けって」 「大丈夫」  胸ポケットからケースを出すと、注射針を出して服の上から腕に差し込んだ。  なにしてんの? 「なっ……何をやって! へんな薬を入れるくらいなら、帰って。すぐに……僕は一人で平気だから。今までだって、ずっと一人だし。これからも……」 「ただの抑制剤。ちょっと強力なだけ。これからは、二人で解決していくんだ」 「……はあ?」  二人……って。  まだ僕と番になろうとでも思ってるの? ばかなの? 「俺が来てから、パジャマのズボンの染みがひどくなった。唯の嫌がることはしないから、傍にいたいんだ」  ぎゅうっと抱きしめられた。  ちょっと……待って。  うそ、だろ……あああっ! イクっ。  神保の腕の中で、僕はあっさりと頂点を味わった。前も後ろも、今までにないくらいに濡れてしまった。  こんな快感は初めてだ。 「と……ま、抱いて。僕をめちゃくちゃに……セックスしたい。早く……」  抑制剤の意味もむなしく、僕は欲望に溺れた。  どこかでこの人はだめだって歯止めをかけようとしているのに、止められない衝動が悔しかった。  気持ちいい身体と、彼を巻き込んではいけないと思う本能がズレて、言葉にできずに涙を流し続けた。  好き……愛してる。  だめなのはわかってるけど……僕は神保冬馬が好きだ。  この人の子どもを産みたい。  僕を離さないで。傍にいて。

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