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第12話「蜜酒」

 風はすっかり涼しくなり、畑の玉ねぎや人参が収穫を迎える。摘み取られたハーブの木は、布を被されて寒さに備えている。花は夏のものから秋のものへと変わる。  籠いっぱいの野菜を厨房の調理台に置くと、モリスは二階へ上がった。秋は日が沈むのが早い。そろそろ、ダヴィッドが起きる時間だ。ダヴィッドの寝室をノックし、そっとドアを開けた。 「ダヴィッド様、おはようございます」  ダヴィッドはすでに目覚めていて、ガウンを羽織ってベッドに脚を投げ出して座り、本を読んでいた。 「おはよう、モリス」  ダヴィッドは本を閉じる。心なしか、穏やかな表情に見える。秋になり、徐々に昼が短くなることで、モリスといっしょに過ごせる時間が増える。モリスは朝、少し遅めに起きる。深夜まで起きて、なるべくダヴィッドといっしょにいる時間を作るためだ。それでも時間は限られている。わずかな時間なのだが、肌を重ねて寝物語をするには充分な時間だった。  モリスがベッドに腰かける。肩を抱き寄せ、ダヴィッドがキスをする。モリスの甘い唾液をいただいた後は、シャツのボタンを外し、中に手をすべらせ、胸の上ですでに硬くなった実をつまむ。 「あっ…」  あふれる吐息も甘い。寝起きのカフェオレとしては甘ったるいが、それでもダヴィッドにはご馳走だ。  肩からずり落ちたシャツが、妙になまめかしく見える。ダヴィッドの舌は首筋から鎖骨、乳首へと下がる。歯を立てないように気をつけ、ダヴィッドは乳首を強く吸う。 「ん…」  強く吸いながら、舌先でくすぐる。舌の動きが激しくなるにつれ、ダヴィッドにしがみつくモリスの手に力が入る。  いたずらな舌に合わせ、手も体じゅうをまさぐる。みぞおちに触れた後は脇腹へ、モリスがくすぐったがる部分を攻める。  ダヴィッドがサッシュベルトをほどき、モリスの下半身をあらわにした。まだ触れてもいないのに、先端は蜜で濡れて輝いていた。ダヴィッドはモリスをベッドに押し倒すと、そこを口に含む。 「ああっ、ダヴィッド様…! いきなり…駄目ですっ」 「時間が惜しいのだ。早くお前が欲しい」  強引な愛撫に、否定の言葉とはうらはらに、モリスは蜜をあふれ出させる。寝起きのカフェオレよりも甘く濃厚な、蜂蜜の酒を充分に味わい、さらにダヴィッドは茎を強く擦り、その下からわき出る甘いミルクさえも絞り取ろうとする。 「待って…待ってください、ダヴィッド様」  モリスは手を伸ばした。ダヴィッドの真っ直ぐな銀髪を撫でる。 「まずは、あなたの方が先でしょう」 「いや、私はいい」  モリスの腰を抱え、ダヴィッドがモリスの尻の下に指をもぐりこませた。 「ああっ…!」 「たまにはここを休ませろ」  ダヴィッドは補食者であるフルシェットとしての欲望を、できる限り抑えている。ここまで抑制がきくのは、小説を書くことに没頭できるからだろうか。それ以上に、従兄弟のフィリップにはなかった感情、ガトーを心から愛するという気持ちが芽生えたというのも大きい。 「ダヴィッド様…それなら…ぁ、私が…手か口で」  ダヴィッドが顔を上げる。鳶色の潤んだ瞳を見つめ、優しく微笑む。 「気遣わなくていい。モリスはただ感じていろ」  牙を立てないように気をつけ、ダヴィッドは蜜を出す鈴口を強く吸う。モリスは体をよじり、シーツの波に溺れる。自分だけが感じていることが恥ずかしく、モリスは声を抑えようとしたが、ダヴィッドの蠢く舌に、噛みしめた唇がゆるむ。 「あ…はぁ…」  ダヴィッドの顔が上下に動き、モリスもそれに合わせて腰を揺らす。先端からあふれる蜜はすべて吸い取られる。  モリスの太腿が痙攣みたいに震え、ダヴィッドの口内で射精する。ダヴィッドの喉が動き、それを飲み干した。最後の一滴までしぼり取った後も、まだ足りないというふうに割れ目を舌でつつく。 「やっ…ダヴィッド様…」  モリスはシーツをつかんで、恥ずかしさに耐える。そんなモリスが可愛くて、ダヴィッドはいつまでもモリスに悪戯をする。根元の茂みを撫で、袋に触れ、尻に指をあてがって広げ、ほんのり赤い秘門をじっと見つめたりしている。 「いや…そんな所…見ないでください」 「愛しいお前の体なんだ。すべてを見ていたい」  口では嫌がっているものの、脱力して何の抵抗もしない。そんなモリスが愛おしくて、ダヴィッドはいつまでもモリスに触れる。 「可愛い…私のモリス」  強く抱き合い、栗色の髪に口づける。液体が一滴たりとも出なくとも、髪の香りをかぐだけで酔ってしまいそうだ。傷跡が痛々しい背中や指にも口づけ、穏やかに時は過ぎていった。  冬になり、庭は薄い雪で所々白く覆われている。この地域では雪は少ないが、昨夜からは急に冷えこんで丸一日雪が降り続いた。月明かりを受けて青白くかがやく庭を通り抜け、玄関のポーチでガブリエルはブーツの雪を落とす。ノッカーは鳴らさず、ガブリエルは扉を開けた。使用人が何人もいれば玄関の番をする者もいるが、この屋敷にはダヴィッドとモリスしかいない。鳴らしたところで聞こえない場合があると知っている。ガブリエルは階段を上ろうとして、渡り廊下から姿を現したモリスを見つけた。  シルクハットを脱ぐと、ガブリエルはモリスに声をかけた。 「失礼、ダヴィッドは書斎か寝室かな?」  いらっしゃいませ、とお辞儀をしてからモリスが答える。 「ダヴィッド様なら、今は書斎にいらっしゃいます」  ダヴィッドは、完成した小説をガブリエルに読ませた。ガブリエルが訪ねてくるたびに少しずつ読ませていたが、昨日完成したため、今日は結末まで読める。飴色の机の前で肘かけ椅子に座り、ガブリエルは文字に目を走らせる。  どう評価されるか、内心ハラハラしているダヴィッドは、書斎の中を歩き回り、読むつもりもない本を手に取ったりして時間を持て余していた。  ガブリエルが、紙の束から顔を上げた。 「ダヴィッド、これを出版社に持って行け。これなら本にして出してもらえる。今は印刷技術もすぐれているから、多数出版してもらえるかもしれない」  本といえば昔は写し書きで、大変高価なものだった。それが印刷という技術ができ、今では機械化されていて、そのおかげで本の価格は下がった。  書斎の机に紙の束を置き、ガブリエルは脚を組んでダヴィッドを見上げた。 「さらに、新聞や雑誌が刊行され始めているから、これから連載小説が主流になるだろう」  ビーンスタック家は、というよりヴァンパイア全般において言えることだが、人間より寿命が長いため、世間を知らなくては時代に取り残される。昔ながらのしきたりや風習に縛られている多数の貴族とは違い、流行や政治、世界情勢、最新技術など、常に気を配って情報を仕入れている。特に身をひそめている期間は、いざ活動を始めたときに時代遅れだと言われて世間から浮いてしまわないよう、情報収集は念入りにしている。 「この小説が世に出れば、お前はますます小説に打ちこめる。荒れてモリスを傷つけることもなくなるだろう」 「これを…出版…ですか」  ランプの明かりしかない暗い部屋で、ガブリエルはうなずく。 「ああ。私が世話になっている、美術関連の書籍を出している出版社がある。そこに紹介状を書いてやるから、モリスに頼んで持って行ってもらうといい」  ダヴィッドの灰色の瞳が揺れ動く。ガブリエルのお墨付きをもらった。初めて誰かに認められ、今度は世間に認められるかもしれない。そうすれば―― 「…そうすれば…収入ができるから、モリスも好きな物を買うことができます」  ガブリエルは肘かけに肘を置き、ダヴィッドの方に身を乗り出した。 「ここの調度品を売っていれば、生活に困らないだろう? ロココ時代や、それ以前の美術品や宝石もある。モリスは自分のために使わないのか?」 「モリスは――」  ダヴィッドは顔を背け、兄に説明した。  調度品や美術品などを売り、得た金を管理しているのはモリスだ。夜にしか外に出られないダヴィッドは、金を使う所が無い。  モリスは必要最低限の衣類や日用品しか買わず、食料の中でも野菜やハーブなどは、庭で栽培している。趣味はとくになく、家事や庭仕事で一日が終わる。  モリスが金を使うところといえば、ダヴィッドのため――衣類や装飾品など、それに紙とインクだ。  ガブリエルが眉を下げ、苦笑する。 「健気だな。彼は本当に、お前を愛している」  それはダヴィッドも同じだ。小説が売れることで名声を得るより、わずかでも収入が入れば、そのお金でモリスに贈り物ができる。ダヴィッドは恥じらうような笑みを見せた。  立ち上がったガブリエルは、厚手の外套とシルクハットを手にした。 「小説が出版されたら、また来る」  廊下に出ると、モリスが自分の寝室に入るところだった。今は傷も少なく血色がいいのを見て安心し、ダヴィッドを頼む、と挨拶をして屋敷を出た。

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