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 稔は、着ていた白衣を保健室内にある個人ロッカーにしまうと、薄手のジャケットを羽織った。日中は陽射しも穏やかで暖かいが、朝晩はまだ冷えることが多い。壁に掛けられた鏡に酷く疲れた自身の顔が映し出されている。それに驚き、稔は何度か掌で頬を擦った。  通勤用の鞄の中から取り出したスマートフォンの電源を入れると、メッセージの着信を告げる。数回、タップとスクロールをくり返したのち、小さな溜息と共に部屋の照明スイッチに手を伸ばした。  ドアを開けた瞬間、たまたま廊下を歩いていた数学を担当する教諭に声をかけられ、小さく肩を震わせた。 「広瀬先生、お帰りですか? お疲れ様ですっ」 「――あ、お疲れ様です。まだ、お仕事ですか?」 「ええ。テスト用の問題作りに追われてまして……」  疲れた表情で首凝りがつらいと根元を揉みながらそう言った彼は、腕時計を見て溜息をついた。 「もう九時か……。もう少し頑張ります。広瀬先生も、今日はずいぶんと遅いですね?」 「ええ……研修会の資料を頼まれまして。慣れないことを引き受けるものじゃないですね。お互いに、あまり無理をしないように。では、お先に失礼します」  眼鏡レンズの奥で目を細めた稔は、スマートフォンを握りしめたまま職員玄関へと向かった。学校の裏門から大通りに出るにはそう時間はかからない。そこでタクシーを拾えば約束の時間には十分間に合う。  外灯の下を通りながら閑静な住宅街を足早に抜けていく。この時間になると交通量も人の往来も少なくなる道で、稔は自身の中に眠らせていた魔性を解き放つ準備をする。  まるで人の目を欺きながら人間と変わらない生活を送る悪魔が、本来の姿を徐々に取り戻すかのように……。  大通りに出るとすぐに、明るい栗色の髪を気怠げにかきあげてタクシーを止めた。 「Yホテルまで」  運転手にそう告げた稔は後部座席のシートに深く体を預け、再びスマートフォンの画面を見つめた。  ウリを専門とする無店舗型ゲイ風俗店『スブ・ロサ』。ラテン語で『秘密裏に行われること』を意味する名前は、今の稔にピッタリだった。店の会員専用アプリをタップした稔は、スタッフオンリーと書かれたバナーを開くとパスワードを手慣れた様子で入力した。そこに表示されたのは、この店で人気上位をキープするキャスト『ロフティ』のページだった。カレンダー表示のスケジュールで二ヶ月分の予約状況が一目で分かるのだが、そこは予約が入っていることを示すピンク一色に変わっていた。  なかなか予約が取れない出張キャストとして人気のあるロフティ。だが、彼が予約を受け付けるのは、午後九時から翌朝の五時までと決まっていた。 「――俺を殺す気か」  ボソッと呟いた稔は、細い指先でいくつかの予約を一方的にキャンセルした。売れっ子になると、店の管理を通すことなく自分の都合に合わせて指名をキャンセルできるようになる。ほかのキャストに比べ、容姿もよく男性とのセックスに長けている稔がそうなるまでに時間はかからなかった。  高尚で美しい女王――。そんな彼に憧れ、抱きたい、もしくは抱かれたいと思う者は多い。だが、養護教諭とウリ專――二足の草鞋を履く稔にとって、今日のように疲労が蓄積すれば客の相手もおざなりにならざるを得なくなる。プロとしてあるまじきことではあるが、出来ることなら延長や特殊なプレイは勘弁願いたい。  通常なら一晩で二~三人の相手をする。だが、今日は一人が限界だろう。客は会員専用予約バナーから、時間やプレイ内容を容易に指定できる。それによって、あらかじめ腹積もりを決めていくのだが、今日はこれといった特別なオーダーはなさそうだ。  今夜の指名客のオーダーに目を通した稔は、細く息を吐きながらシートにスマートフォンを放った。  我ながらバカげたことをしているという自覚はある。養護教諭という身分で、夜はどこの誰かも分からない男とセックスする日々。もしバレたら学校内だけでなく、保護者やマスコミが大騒ぎし、稔は学校から追われるだけでなく、教諭としての地位も失うことになる。そうなったら、こちらの道で生きていくしかないと腹を括っていた。 『スブ・ロサ』にキャストとして入店したのは、思い付きでも性的不満からという理由でもない。本当なら、こんなことはしたくなかった。両親への反発であった『若気の至り』は、大学を卒業する頃には笑い話に変わっていた。それなのに……今もこうして、傲岸不遜な女王を演じている自分が、時々ひどく滑稽に思えてくる。  自業自得――過去にさんざん泣かせた者たちの呪いか、はたまた自ら進んで闇へと堕ちていったのか。 「くだらない……」  自嘲して脚を組み替えた稔は、窓に流れる景色を見ながらゆっくりと目を閉じた。  *****  指定されたYホテルは、ビジネス街や乗り入れ路線が多い主要駅にも近い場所に立地しているせいか、出張と思しきサラリーマンの姿が多く見受けられる。  ホテルに着いた稔は、指定された部屋のドアをノックした。くぐもった声と共に、内側からドアが細く開かれると、周囲を一度見まわしてからするりと体を滑り込ませた。  極限まで照度を落とした薄暗い部屋の中は静かで、客がベッドに腰かけた軋んだ音が聞こえた。 「こんばんは。ご指名、ありがとうございます」  高圧的とも思える声音でおどけて見せると、その客は燻らせていた煙草を灰皿に押し付けてゆっくりと振り返った。その瞬間、稔は息を呑んだまま動けなくなった。そして、その客も――。 「稔……? どうして、お前が……?」  驚いたように掠れた声を発したのは、稔のよく知る男だった。他人のそら似というには違っている部分が見つからない。高校生の頃から知っているその顔。今日も保健室を訪れては、稔に世話を焼いていた彼――優吾だった。  その途端、極度のストレスと疲労感が稔を襲った。ツキンと走ったこめかみの痛みに眉を寄せ、小さく舌打ちした。 「――部屋を間違えたようだ」  抑揚なくそう言い放った稔は優吾に背を向けると、足早にドアへと向かった。しかし、手首を優吾の大きな手に掴まれ、それ以上前に進むことが出来なくなってしまった。 「ロフティ……。お前がそうなのか?」 「お前には関係ない」 「ある。どんなプレイでもOK。だが、顔出しNGの『スブ・ロサ』きっての人気キャスト……。料金設定もほかのキャストより高めで、なかなか予約が取れないウリ専の女王……」  稔はドアをじっと見つめたまま、肩を上下させて大きく息を吐き出した。 「――だから、なに?」  思った以上に声が掠れている。緊張からか、はたまた底知れぬ恐怖からなのか。今の稔にはそれを考える余裕は皆無だった。優吾に余裕のある素振りを見せることで、何とか自我を保つしかなかった。  背後で彼が動くのが分かった。稔の背中に自身の体を寄せると、優吾は低い声をさらに落として耳元で囁いた。 「部屋は間違っていない。ロフティを指名したのは俺だ」  それを聞いた稔は、ジャケットのポケットに手を入れスマートフォンを取り出すと、ボタンを押して素早く起動させた。 「じゃあ、キャンセルする。俺は、客を選ぶことが出来る。お前はロフティの眼鏡にはかなわなかったってことだな。残念だが、他をあたってくれ……」  スマートフォンを操作し始めた稔の手を再び優吾が掴んだ。すぐそばにある彼の顔を意識してしまい、わずかだが指先が震えた。 「どうして、こんなことをしている? お前……自分の立場を分かってやっているのか?」  優吾の正義感。今まで何度も煩わしいと思ってきたその言葉が、稔の罪悪感をより増幅させ惨めにさせていく。優等生である優吾に間違いはない。だから余計に、自分のしていることが『間違いである』と認識させられる。 「結婚しているんだろ? 相手を裏切るような真似をして……お前はそれでもかまわないのか?」 「……」 「答えろ、稔っ」  優吾の手が稔の肩にかかり、無理やり体の向きを変えられ彼と向き合う形になる。優吾の愚直なまでの瞳を直視することが出来ない稔は、顔を背けて呻くように言った。 「――お前も。お前もなんで……ノンケのくせに男なんか買ってんだよっ」  稔の問いに、優吾は少しバツが悪そうに視線をそらした。そして、わずかに目を伏せたまま言った。 「女はもちろんだが、男も抱ける。ここ数年は、煩わしい感情抜きでセックスできる男としか関係を持っていない……」  思いがけない彼の告白に、稔の中にあった優吾の確固たるイメージに、一筋の亀裂が走るのが分かった。その亀裂は細かなヒビを放射線状に広げ、稔の想いを揺るがしていく。 「へぇ……。意外だったな……。優吾、男もイケるなんて……。もしかして、俺に触発された……とか?」  急に黙り込んだ優吾に、稔は自嘲気味に唇を歪めながら眼鏡のブリッジを指で押し上げた。そして、彼を覗き込むように首を傾けると、誘うように自身の唇を舐めて見せた。 「無視、すんなよ。高校教師が男娼を買うって……。お前、人のこと言えないだろ……」 「稔……」  弾かれるように顔を上げた優吾が声を出そうとしたその唇を、稔は人差し指を押し当てて制した。 「俺、お仕事中なの。プライベートに関しては、これ以上お答え出来ません。――なぁ、お前はどうしたい? 俺を抱きたい? それとも……抱かれたい?」  男を誘う時、自分でも驚くほど艶のある声が出る。それは高校時代から変わっていない。欲しいと思うモノの前では無力で、欲求だけに支配されるように体が切り替わる。でも、心のどこかで優吾が自身を突っぱねて、拒むことを期待していた。  唯一無二の友達であり、ずっと想い続けてきた優吾との関係を、こんなくだらない茶番で壊したくはなかった。  それなのに――。 「抱きたい。ロフティ、お前を抱きたい……」  稔はわずかに目を見開いた。予想もしていなかった優吾の答えに驚き、上手く息が出来ない。それを優吾に悟られまいと稔は気丈に振る舞った。  目の前にいるのは、どこの誰とも知らないただの客。彼が望み、金を落としてくれるのなら、それに応えるのが男娼のつとめ――そう割り切って、傲岸な女王の仮面を被る。 「自分の欲望に正直な男は嫌いじゃない。無駄な時間を使ったな。今回に限り、延長も認めてやるが、どうする?」  稔はその場にゆっくりと膝をつくと、優吾のスラックスの中心を愛おし気に撫でた。少し兆し始めたそこは、芯を持った楔が次に与えられる愛撫に期待するかのように脈打っていた。 「これで何人の男を泣かせた? こんなに立派なモノを持っているって分かってたら、遠慮しないで食っちゃえば良かった……」  愛撫するたびに大きく膨らみ、スラックスの生地越しに形を露わにしてくる優吾のペニスにうっとりと目を細め、妖しさを纏った綺麗な顔をゆっくりと近づけた。そして、両手でベルトを緩めながらファスナーを前歯で咥えると、慣れたように引き下ろした。 「稔――っ」  焦ったように声を上げた優吾だったが、眼鏡のレンズ越し、劣情に濡れた目で彼を見つめる稔を目の当たりにし、息を呑んだまま動けなくなった。  ジ……ジジ……。ファスナーを下までおろした稔は、ホックを外し前を寛げると、下着を濡らしながら脈打つ優吾のそこに唇を押し当てた。舌先を伸ばして、見せつけるように先走りで濡れた場所を掬い取っていく。十分に濡らした後で、稔は下着のウェストに指をかけると、躊躇なくそれを引き下ろした。勢いよく飛び出した優吾のペニスが稔の鼻先を掠める。蒸れたような雄独特の匂いに、目の前がぐらりと揺れた。  高校生の時、毎晩のように想像していた優吾のペニスに触れている。火傷しそうなくらい熱くて、大きく張り出したカリから先も幾分長い。根元から延びる竿の太さは女性の腕ほどあり、血管を浮き立たせている薄い皮膚越しにトクトクと脈打っているのが分かる。陰嚢はたっぷりと膨らみ、だいぶ溜め込んでいるようだ。 「一回抜く? それとも……俺の中で、ぶちまけたい?」  稔の細く長い指が優吾の竿を焦らすようになぞっていく。その度に、先端がビクンと跳ね上がり、小さな割れ目からは透明の蜜が滴り糸を引いていた。膝をついたまま優吾を見上げた稔は、大好物を目の前にした獣のように、口内に溢れてくる唾液を呑みこみ切れず唇の端から溢れさせた。 「見かけによらず、エッチなんだね。期待しすぎて、もう蜜まで垂らしてる……」  指先でその蜜を掬い、自身の舌先で舐めとった稔は「美味しい」と嬉しそうに口元を綻ばせると、恭しく竿に手を添えて言った。その声はいつになく低く、そして優吾の背筋がゾクリと震えるほど艶のあるものだった。 「――これをどうしたいか聞いてる。素直に、俺の喉奥を犯したいって言えよ。上手く出来たら、もっと気持ちいいところを突かせてやる。俺の尻の奥をメチャクチャに抉って、イヤらしい声を聞きたい――そう言えよ」  相手を見下すような物言い。女王、ロフティの前では誰もが無力で、彼の命令には逆らえない。  優吾は苦しげに眉根を寄せると、きつく結んでいた唇をゆっくりと開いた。乾き切った唇から掠れた声が紡がれる。 「咥え……ろ」  淫らな稔の体が愉悦に震えた。同時に、苦しさと痛み、そして計り知れない後悔と切なさに襲われる。嬉々として優吾の竿を咥えようとする体と、それだけはダメだと叫ぶ心がせめぎ合い、思考が徐々に曖昧になっていく。  舌先を伸ばしながら薄い唇を目一杯広げた稔が、敏感な粘膜に覆われた雄竿を口内に誘う。少し塩気の強い蜜が口内に広がり稔の唾液と混ざり合うと、禁断の果実を口にしてしまったような罪悪感が生まれる。その罪悪感の向こう側にある極上の快楽だけに目を向けた稔は、太く熱い竿を口いっぱいに頬張りながら目を細めた。  ――ずっと大切に守り続けて来た聖域を壊すのは一瞬で。自らの手によって破滅へと導いていく。  誰にも見えない、誰にも触れることの出来ない、稔の心の中に存在するオアシス。そこにいるのは、心を許した唯一の友達――優吾。  彼だけには知られたくなかったもう一つの顔を晒し、稔は淫らな水音を立てて激しくしゃぶった。優吾の力強い手が稔の頭を押えつけ、腰を突き込むように喉奥を責めたてる。気管を圧迫されるような息苦しさと、堪えきれない嘔吐きで涙と鼻水が止まらなくなる。 「ぐぉ……うぅっ。ご――おぇっ……おぇぇ――っ」  胃の内容物が何度も逆流し、唇の端から溢れ出す。強烈な異臭と粘度の高い液体が、稔のジャケットを汚した。それでも、優吾は腰を前後させることをやめなかった。唾液と胃液、そして溢れ出る蜜に犯された稔は、知らずのうちに自身の股間を撫でていた。スラックス越しに形を変えていく淫らな自身を嘲笑うかのように、舌を絡めて優吾の先端を抉った。 「や――あぁ……みの……り、出る……っ」  優吾の眉間に寄せた皺がより深くなる。天井を仰ぎながら荒い息を繰り返す彼を見上げ、稔は敏感になっているカリの部分に軽く歯を立てた。優吾の竿の質量が増し、稔の口内を圧迫した。反り返った竿が口蓋を押し上げて、どこもかしこも気持ちがいい。舌の上でドクドクと脈打つ彼を感じているだけで、自分のものになったような気がしてくる。  稔が欲しかったもの――それは、淫らな体を満たす優吾という名の玩具。  十八歳の高校生が抱いていた仄暗い感情。稔にとって恋と征服欲は紙一重だったに違いない。それを恋だと勘違いしていた自分の愚かさに、今やっと気がついた。  長い片想い。そして、唯一の逃げ場であり癒しの場所であったオアシスを自らの手で壊すことで、完全に終わらせることが出来る。  どうして、もっと早くこうしなかったのだろう。卒業までの三年間、チャンスはいくらでもあったはずだ。  友達といえる関係になるまでには、かなりの時間がかかる。でも、それを壊すのは瞬きの時間。 「あぁ……イ……イク。稔……出すぞっ」  優吾の指が頭皮に食い込む。喉奥に突き込まれたままの竿がビクビクと激しく脈打った。 「ちょーらい(ちょうだい)」 「イクッ――っぐぅ!」  稔が潤んだ目を瞬かせた時、喉の奥で灼熱が迸った。鼻に抜ける青い匂いと、独特の苦みが口内にジワリと広がっていく。粘度が高く量が多いところをみると、ずいぶんとご無沙汰だったようだ。  喉に張り付いた粘液にむせ返りそうになりながらも、稔は残滓をしぼるように口をすぼめて優吾の竿を吸い上げた。 「んぁ……ハァハァ……やめっ……やめ、ろ」  肩で息を繰り返しながら遠ざけようとする優吾だったが、射精後に感度が上がった場所を稔の舌で愛撫され、悶えるように腰を揺らした。  まだ口内にある優吾の精液を味わうように、何度も舌に絡めては飲みこんでいく。稔の白い喉が上下するたびに、優吾は自身の口元を押えたまま目を背けた。 「美味しい……。クセになりそう」  唇についた残滓を舌先で舐めながら、稔は満足げに微笑んだ。そして、ゆっくりと立ち上がると自身の吐瀉物で汚れたジャケットを脱ぎ捨て、優吾の肩に手を掛けた。引き締まった体を確かめるように指を這わせ、彼の腿に兆した自身を押し当てた。 「フェラでイキそうになったのなんて久しぶりだな。なぁ……今度は俺を愉しませてくれるんだろ? この太いので、俺のメス穴を犯してくれよ。今夜は新規特別サービス、料金そのまま生でぶちまけていいからさ」 「稔……」 「――失望した? お前が知りたいって男は、こんなにも淫乱で節操なしの肉便器なんだよ。それは十年前も一緒……。ヤリたいってヤツには尻穴開いてやったし、犯されたいっていうヤツは壊れる寸前までやった。男も女も関係ない……。ただ、俺を必要とした者たちに応えただけだ」  稔は自分の言葉が鋭い刃となって自身の心を抉っていくのを感じていた。自虐思考にもほどがある。でも、エムではない。どちらかといえば、傅かせて痛めつけ優位に立つ方が性に合っている。 「そんな俺と友達だって……胸を張って言えるか? なぁ、優吾……俺たちはもう、友達じゃない。体の関係を持った以上、それは成立しない」 「そんなことは……ないっ」 「何を以て? 根拠は? 俺はお前に買われた。金と引き換えに快楽を売る――それが男娼(キャスト)だ。お互いに気持ち良ければ問題ないだろ。事実……お前は俺に欲情した。そうじゃなきゃ勃起も射精もしない。男の体は演技派の女と違って、いたってシンプルだ。相手に嫌悪感を覚えれば萎えて使い物にならなくなる。でも――」  稔は自身の下肢に当たる優吾のソレを掌で包み込むと、悪魔のように薄らと笑った。  先程大量に射精したとは思えないほど、優吾のペニスは大きく膨らんでいた。すでに芯を持ち、張り出したカリが力強く頭を擡げている。その先端を指先でクルリと撫であげると、白濁混じりの蜜が糸を引いた。 「ここはバカがつくほど正直だ……」  その蜜を自身の指に纏わせた稔は、グッと息を呑んだ優吾の唇にそれを突き込んだ。そして、冷酷とも取れる感情の読み取れない目で抑揚なく言った。 「舐めろ。お前の蜜は甘くて……イヤらしい匂いがする」  優吾は言われるままに稔の指をしゃぶった。先程の残滓と蜜が混じり合い、舌の奥が苦みでキュッとなる。その姿を、稔は楽しそうに見つめていた。まるで新しい玩具を手に入れた子供のように……。

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