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第2話
昼休みの、社員食堂。
人が集まり始めたその時間、エレベーターを降りたところでちょっとした騒ぎがおきていた。
「それも、中田さん仕込みかよ!」
周囲がちょっとためらうような大声で、菊地の胸ぐらをつかみ怒鳴りつける男――東という名の、僕や菊地より三期上の営業マンを見て、騒動の原因に思い当たる。
先月だったか、ちょっとややこしいクレームが入った。
それをうまく解決できずに、ことが大きくなった。
内容はよく知らないけれど、搦手で解決にもって行くように進言したのは、菊地だと聞いた。
解決できたのだからそれで良しとすればいいのに、ことを大きくしてしまった張本人の東さんはそれが腹立たしかったのか、ことあるごとに菊地に絡んでいるらしい。
所属が違う上にどちらかというと社内の情報に疎い僕の耳に入っているくらいだから、よほど東さんがしつこかったんじゃないかと思う。
僕と菊地は最寄駅が一緒だから、時々通勤が一緒になる。
菊地は、できるだけ東さんに会わないようにしているんだと、その時に言っていた。
その態度も東さんの気に食わなかったのだろう。
社員食堂で鉢合わせした途端に、つかみかかり怒鳴りつけるといった暴挙に出たらしい。
「ちょっやめろって」
「そうやって顧客囲い込んで、いい気なもんだな!」
「東、やめろ」
「佐倉、ちょっと引き離して」
「はい。菊地、こっち」
周りにいた人間が、慌てて二人を引き離す。
様子を見に行って、菊地の隣に立っていた僕は、主任の声にうなずいて、菊地の腕を引いた。
「離せ! おい、お前どんな手つかったんだよ! 枕じゃねえだろうな!」
「東!!」
「卑怯だぞ! お前らしか使えないじゃねえかよ!」
卑怯?
東さんの言った言葉に、僕は振り返り首をかしげた。
引き離そうと触れていた菊地の体に、緊張が走るのがわかった。
「そんな手使ってないし、中田さんはそんな人じゃない」
一言も反論しなかった菊地が、低い低い声で言った。
「どうだか。俺らには理解できないこと、平気でできんじゃないの?」
「勝手なこというな」
「東、言いがかりもほどほどにしておけ。佐倉、菊地を連れてけ」
「あ、はい」
まだ言い足りないように暴れている東さんを置いて、僕は菊地の腕を引き、階段室へ向かう。
東さんの口から出た『中田さん』というのは、もう退社した先輩だ。
確か東さんの一期上で、菊地の指導員だったように記憶している。
枕だとかいってたな。
東さんには使えない、とも。
ずっと無視していた菊地が、不快をあらわにした。
菊地が、指導員だった人に懐いているというのは、同期の中でも有名な話だった。
騒動の中でこぼれていた情報の断片をつなぎ合わせれば、なんとなく見えてくるものがある。
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