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9話(上)
「俺のだから少し小さいかもだけど、着替え、一応置いておくから。」
シャワーの音に消されないように、[[rb:弥生 > やよい]]が大きめの声で言う。
「ありがと」
彼シャツだなあ、などとくだらないことを考えつつ、[[rb:真矢 > しんや]]はシャワーを終える。
部屋着用らしきTシャツとハーフパンツが丁寧に畳んでおいてあったが、シャワー上がりの熱を覚ますため、結局ハーフパンツだけ借りて弥生に声をかける。
髪を拭きながらTシャツを片手にリビングへ戻ったが、弥生は寝室にいたらしくすれ違うことは無かった。
「ソファででも待ってて、」
シャワールームから声がする。
ソファでスマートフォンを片手に改めてセックスの手段を検索する。
抱くなどと言ったものの、真矢は女の抱き方しか心得ていない。弥生のことを想像の中で汚したことはここしばらく何度かある。そんな背景から、万が一の時のためにといそいそとアナルセックスがなんたるかを検索してきたが、未だに自信がなかった。
なんとなく、弥生は初めてではないだろうとは思うのだが。
シャワーは終わったのだろう。ドライヤーの音が聞こえてくる。
真矢は、弥生のセットされていない髪を見るのは初めてだった。職業柄いつもスタイリング剤で整えられた姿ばかりで、弥生の裸と同じように、その無防備な素顔が早く見たいと願った。
リビングの扉を開けつつ弥生が呼びかける。
「マヤくん、おまたせ。」
「しんや、」
奥のソファへ向かうと、肩にかけられたタオルで隠されていた裸体が確認されて目に毒だった。
「真矢くん…。」
嫌味のないしなやかな筋肉が肩から背中、腹部を象っていて、弥生はソファ横におどおどと立ち尽くす。
「弥生サン、隣きて。」
「うん。」
真矢に差し出された手を握れば、隣に座るよう引かれる。触れる肩が熱い。
「弥生サン、いつもオシャレだし、こういう格好するとなんか可愛い。」
「かわ、!?」
部屋着の上からそろりと膝を撫でられるのがくすぐったくて身をよじる。
「下、俺に貸してくれたのとおそろい?」
「うん。」
あったものを貸しただけではあったが、おそろいという言葉にされると、何故かそれは酷く甘い行為に思えた。
「弥生サン細いな、」
真矢の指の先が弥生の膝を弄ぶ。
「…っ、ちょっと、くすぐったいよ」
そのまま内腿へ人差し指が、つ、と這う。その感覚に羞恥を煽られて弥生は唇を緩く噛んで俯いた。
「弥生サン」
内腿を撫でる手はそのままに、真矢は首からかけたタオルを取り払い弥生の顎を掬うと自分の方を向かせる。
「俺の事見て、」
そう言われて弥生は視線の着地点に混迷した。目を合わせれば切なくなり、唇を見れば物欲しい心中を透かされるのは自明で、とはいえ自身の顎を掬う腕も、肩も、胸も、真矢の体は想像以上に引き締まっていて、それを惜しまずさらけ出す様も眩しかった。
目を泳がせる弥生を見かねて真矢は顔を近づける。
「俺の目、見て。」
真矢の瞳の中には確かに弥生だけが映っている。真っ直ぐに射抜かれ、逸らすことを許されない。弥生はじくじくと体が熱を持ち、触れられたい一心で名を口にする。
「しんやくん…」
「弥生サン、キス、したい?」
顎を持つ手の親指で、真矢がゆっくりと弥生の唇をなぞる。
弥生はその焦れた感覚に我慢を出来ずに、答えないまま瞳を伏せほんの少し唇を開いた。
真矢は込み上げる衝動を押さえつけて、開かれた唇の中にじわりと親指を差し込むと、弥生が顎を下げ、舌でちろりと指を舐める。
更に指を押し込むと、弥生はちゅぱちゅぱと音を立てて口の中で指を転がした。弥生の悩ましげな眉間にキスをする。
真矢はそのまま顎を開かせると指の腹で舌を掴み、片手で弥生の後頭部を押さえ、舌を出させた。弥生の瞳が不安げに開かれる。
「弥生サン、キスしたい?」
開けっ放しの口から、舌を伝って唾液が垂れるのを、真矢は空けた片手ですくって舐めた。
そして弥生の目を塞ぎ、指で掴んだ舌をべろりと舐め上げる。
「っ…」
弥生の肩がびくりと震える。真矢は舌を離し、弥生の髪を、頬を撫でる。
弥生は我慢ならずに真矢の胸へ身を預ける。
「ね、真矢くん…キスは?」
「弥生サンがしたくなければしないよ。さっきは俺の勝手でキスしたから。ごめん。」
優しい言葉を並べるくせに、それは確かに己の恋情とも劣情ともロクに向き合えない、狡い大人への罰だった。
「キスして。」
「いいの?好きとも言えない男とキスなんかして。」
口にしながら真矢は自ら傷つく。そうだまだ、好きとは言って貰えていない。
「いいよ、キスして、」
それでも好きと言えない弥生に、根負けした真矢がキスを与える。
そのまま真矢は弥生に馬乗りになる。何度もバードキスを繰り返し、組み敷いた弥生の指を絡めとって握った。
それから唇を舌で舐めて押し開けると舌を探って絡めとり、唇を覆って息の逃げ場すら奪う。何かを探しているかのように入念に口の中を確かめ、時々弥生の舌下腺を刺激しては音を立ててそれを吸い取った。
「ん、ふぅ…あ」
真矢は犯すなんて口にしたくせ、重さを持った優しさで、毒よりも丁寧に弥生の思考を蝕む。
弥生のシャツをたくし上げ、腹部に手のひらで触れる。臍の周囲を指で刺激され、肋をなぞる。脇腹を手のひらで撫で上げられると、くすぐったさと相まって弥生は思わず声を上げる。
先程の膝といい、どうやら弥生はくすぐりに弱いようだと踏み、真矢は脇を指の腹でソワソワと刺激する。
「ぅ、…っん、ふふ…、ぁ」
キスの隙間から笑っているとも感じているとも取れる弥生の声がこぼれる。
しばらく脇や肋を刺激した後、真矢は手のひらで弥生の胸を包んだ。平らな胸に熱い手のひらを当て、まさぐるようにソワソワと回す。
少しずつ乳首が誇張を始める。乳輪に円を描くように指の先でなぞるとピンと乳首が勃起して見せた。
「ん、っ。」
母指球でくりくりと乳首を回してやると弥生は行き場をなくしたもどかしさに、つないだ手と反対の手で真矢の肩を押す。
抵抗と見て真矢がキスを止めると、真矢の口を逆手で塞いで、弥生は瞳を潤ませる。
「ね、真矢くん……ベッドでシて」
真矢は素直にわかったと言って、起き上がり、弥生をひょいと抱えた。
「あんたホント軽いな…。食べてる?」
「食べてるよ。」
むくれる頬にキスをされる。
弥生は抱えられたまま、あっち、と部屋を指し、両手のふさがった真矢に代わりリビングのドアノブをひねった。
抱えられていると耳のすぐ横に真矢の鼓動があり、少し擦り寄ると自分と同じようにドクドクと鳴っているのが分かる。緊張、してるのかな。弥生が真矢を見上げると目が合う。
「ん?」
物欲しそうに見えたのかキスをされた。
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