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第3話

 アレンの家は僕とヴィクターの暮らす家よりずっと狭かった。  もちろん僕に不満などない。というより、僕はずっと忘れていたがこれがふつうというものなのだ。ヴィクターと僕が暮らしていた家はアレンのすまいとくらべると「屋敷」と呼ぶべきもので、無駄に広かった。一方アレンの家はこじんまりしていて、アレンの寝室と書斎、キッチンと浴室、リビングに食堂、それに以前はご両親が使っていたらしい客用寝室がひとつあるだけだ。僕がヴィクターのロープで縛られて実験されるためだけの部屋なんて存在しない。これがふつうなのだ。  アレンは客用寝室を僕に使わせるつもりらしい。大きめのベッドと机がおいてある。少ない荷物を片づけながら僕はなんともいえない感動をかみしめていた。もう夜も遅い時間だった。 「大丈夫だろうか」 「ええ、もちろん。こんなにしてもらって、僕は……」 「そんな、堅苦しいいい方はやめないか。俺はきみが好きだといったんだ。ティム――」  僕らはベッドのそばでむかいあっていた。アレンはすこしかがむようにして僕の肩に手を置いた。イケメンの顔が近づいてくる。唇が唇にそっと触れ、ぎゅっと押しつけられて――離れた。  え? 目をみひらいた僕にアレンはいった。 「ごめん、びっくりさせたかな」 「いえ……」 「嫌だったら、もうしない」 「そんなこと、ないです」  そんなことないというか、これで終わり? というのがびっくりした理由だったのだが、僕はあわててその気持ちを打ち消した。きっと僕は何年もヴィクターの実験台になっているせいで、感覚がおかしくなっているのだ。もちろん潔癖な兄は僕にキスなんかしないが、兄の|ロ《・》|ー《・》|プ《・》に口を犯されるのには慣れている。そのせいか僕はふつうのキスもあんなものだと思いこんでいた――えっと、つまり奥まで入ってきて、ぐちゃぐちゃにされて、頭がぼうっとするまで歯のあいだをくすぐられたり吸いつかれたりして、僕のほうからも舐めてしゃぶらないといけないような、そんなものだと。  ああ、だめだ、やっぱりヴィクターはだめだと僕はあらためて思った。兄のせいで僕の常識はとっくにおかしくなっていたのだ。  アレンはそっと僕の肩を抱き、ベッドに座らせるともう一度キスをした。今度は舌が入ってきたが、撫でるように口の中をもごもごさせただけで離れてしまう。物足りない気分だったので僕はアレンの首に手を回し、すこし深く唇をつけた。アレンの息が急に激しくなって、ベッドの上に倒される。 「ティム、きみはなんて――」  ん? アレンが何をいおうとしたのか理解する間もなく、ベッドにぎゅうっと押しつけられ、のしかかられた。僕よりずっと大きな男に上に乗られては抵抗できないし、抵抗する気はそもそもなかったけれど、こんなに急なのは気になった。ヴィクターは実験のとき時間をかけるからだ――魔術で僕を動けなくさせて、椅子だのベッドだのにロープで縛るときも、縛ったあとも。  でもアレンは興奮した顔で僕の服を脱がせにかかり、その手つきはロープよりずっと乱暴だった。待ってとかなんとかいおうとしたとき、ズボンをずるっと抜かれてうつぶせにされた。唾かなにか、濡れた感触のものが尻の割れ目にすりこまれて、熱い棒が背中にあたる。アレンのアレだ。指が乱暴におしひらいて、僕は違和感にうめきそうになった。中になにか入れられるのはヴィクターのロープで慣れているけど、あれはもっと濡れているし、僕だってもっと……。 「ティムははじめてなの? すぐ慣れるから」 「アレン?」  僕は痛ッとかなんとか叫んだと思う。ヴィクターの実験台になるのとはまったく別の衝撃だった。最初は本当に裂けるのではないかと思ったくらいだ。そんな僕からアレンはいったん離れ、戻ってくるとトロトロする何かを僕の尻と背中に垂らして、またうしろから入ってきた。  アレンは僕の背中で気持ちよさそうな声をあげ、思い出したように僕のしょんぼりしたペニスに手をまわし、しごいてくる。機械的なピストン運動の結果、僕の息子もちょっと元気になったけど、それだけだった。でもアレンはとても満足したようだ。寝そべったままの僕の頭をササッと撫でると、毛布をかぶり、すぐに寝息をたてはじめた。あいにく僕の肩は毛布からはみでているし、脱がされた服や下着もどこへ行ったかさっぱりわからない。起き上がると尻が痛んだ。あのときすこし裂けたのかもしれない。  こんなことならヴィクターの――という考えが頭に浮かびかけたが、僕は首をふって思いなおした。そのあとは服を探し、おそるおそるトイレに行き、シャワーを使った。

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