2 / 20

第2話

「な、泣き止んでくれないかな」 慌てて鏡越しの彼に言う。 泣き止む気配はなく、周りの視線が痛い。 ふと、俺は閃き、店長に声を掛けた。 「あいつ、俺の弟なんです...うち、かなり複雑な家庭なもんだから、家で色々あったみたいで....」 神妙な顔で大嘘をついた。 俺の家庭事情なんぞ知らない店長が、 「...そうなの?可哀想に...今日はもう上がっていいから、弟さんの傍にいてあげて」 店長もまた神妙な顔つきで、俺はようやく、男子高校生を泣かせている美容師、では無くなった。 「ちょっといいかな。俺、もう上がりだから話しを聞くよ」 鏡の前で俯き、まだ1人で泣いている少年に優しめに声を掛けた。 外に連れ出してもまだ泣いているので、俺の家に連れていく事にした。 同じく別の美容院に勤める、彼氏、祐介はまだ勤務中だし、同棲はしていない。 普段は電車を利用するが、泣いている制服姿の高校生と歩くと目立って仕方ないので、彼を連れてタクシーに乗り込んだ。

ともだちにシェアしよう!