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騎士を目指して~第4話 願い~
さすがに10日も熱にうなされていたおかげで、起き上がることができず、ドナートに徹底的に世話されたのだが、それは割愛する。
私の髪は青味がかった銀髪へと変化していた。瞳も薄い青色に変わっていて皆が驚いた。
ドナートだけはますます綺麗になったと、おかしなことを言っていた。
魔法医は闘病の果てに髪の色が抜けるのはままあることだと言っていた。
恐怖を強く感じたり、精神的に追い詰められたりすると色が抜けるそうだ。
だが、瞳の色まで変わるというのは聞いたことがない、と言われたが、とりあえずそういうことでおさまった。
『私のせいなんだけどねえ。』
しれっと、真実を暴露してくれたのはアクアだった。
アクアはたまに姿を現すようになった。
ものすごい人間離れした容貌を持っていて、背丈を超える、長い水色の髪で、瞳も水色だ。
『たまに属性の色を宿す人間がいるだろう?今の主はそんな感じだ。見る人が見れば精霊の祝福と見破るだろうが、ここにエルフはいないしね。』
(エルフは精霊が見えるの?)
『彼らは森の愛し子で、緑の精霊が祝福を授けた種族だ。ドワーフは大地の精霊が祝福を授けている。』
(ヒューマンにはいないの?)
『ヒューマンは血の気が多いから精霊の祝福を受けるようなものは少ないな。この王国が神龍の加護を受けたが、二次的で限定の加護だ。思いあがると神の愛し子に滅ぼされるから気をつけるように。』
たまにアクアの言うことがわからない。
(つまり、ヒューマンは精霊に好かれる人が少ないってことだよね?)
『まあ、そんなようなものだ。』
私は人の悪意にずっと晒されてきたから否定することもできなくて、なんだか悲しくなった。
あの美しい湖の上でさえ、悪意は私を害そうとした。
アクアが怒れば人はあの場所に止まる事もできなかったはずなのに。
恥ずかしい。
私はどんな悪意にも打ち勝てるように、強くなりたい。
美しい場所を美しいままに。
そして、そこに住む人々を守れるように。
私が目が覚めて10日ほどたったころ、ようやく体力も魔力も戻った。
そして、王に呼び出された。
私的な家族だけの呼び出しだとそう聞いたが、護衛や側仕えなどが一緒に行動するのは当たり前だった。
まずそんな形で集まって、席を外すのだ。
だが、私には側仕えや側近などいるはずもなく。
ドナートが代わりをしてくれるというので甘えた。
呼び出されたのは王の私的な応接室だ。
中に入るとお茶会のように席が設けられていた。
王と、4人の兄たち。王配と側配はおらず、執事と、僅かな侍従だけだった。
ドナートも同席を許されて私の隣に座った。
「此度は大変な目におうたのう。元気になって安心した。快癒祝いじゃ、何か願いはないかの?」
王がこんなことをいうのは初めてだった。
ちらりと二人の兄を見た。ジェスロンとモーデス。
二人は表情を歪ませて、震えていた。
ああ、これは、私が処分をと願ったら罰が下る流れだろう。
面倒だ。
私は薄情なのだ。蜘蛛が壁を這っても気にはしない。
だが蠅のように顔にたかるなら追い払うまで。
今の彼らは、蜘蛛かネズミ。
なら、私は彼らの目の届かぬところに行けばいい。
「では願いを。私は王国に新設される、竜騎士団の騎士になりたいと思います。その願い叶えていただけませんか?」
王が固まって目を見開いた。ああ、こんな表情は初めて見た。少し笑える。
「私は5番目です。よほどのことがなければ政に深くかかわることもないでしょう。ですから、私を養ってくれる王国の民のために戦いたいと思います。」
実質王位を争わないと宣言した。さて、ちゃんと叶えてくれるだろうか。
王はしばらく考えた後、咳払いをして頷いた。
「よかろう。できる限りの手助けもすることを約束しよう。ただ、もう少しわがままを言ってもいいのだぞ? そちはまだ子供なのだからな?」
王の前で子供が我儘を言ったら平民であれば首をはねられる案件だよ。
何か言いたげにドナートが私を見た。
「では、私を助けてくれた、ドナートにも何か褒美を。」
ドナートが緊張した面持ちで口を開く。
「では、陛下に願いを奏上してもよろしいでしょうか。」
ドナートは震える唇で、強い光を眼差しに込めて王を見据えた。
「よい。許す。」
温和な表情で王は頷いた。
「では、私をクエンティン様の側仕えにしていただけますか? 将来は護衛騎士となり、生涯仕えたく存じます。」
胸に手を当てて首を垂れる姿に、私は衝撃を受けた。
「なんと、そなたはリュシオーン公爵の3子であるぞ。よいのか?」
王も戸惑った様子で、確かめた。
「はい。私はクエンティン様を主としてお仕えしたいと願います。クエンティン様が竜騎士になられるのでしたら私も竜に乗り、お守りしたいと思っております。」
兄たちが、ざわつき、こそこそと何か話している。
「……よい。許そう。余からも公爵には話を通しておこう。」
それからお茶とお菓子をいただき、解散となった。
私たちは部屋に戻り、ソファーに身を投げ出した。
「……ドナート。いいの? 僕に仕えるなんて。公爵は爵位など、たくさん持っていると思う。いずれは伯爵くらいは授けて領地を持たせるんじゃないのか。」
「俺は、もう、あんな危険な目にクエンを遭わせるつもりはない。どれほど生きた心地がしなかったか、わかるか?」
真剣な目で見つめられて、きゅうっと胸が締め付けられる。
「ごめん。」
私は思わず項垂れた。ドナートが、ものすごく心配してくれたのはアクアからも聞いた。
ドナートは首を横に振る。
「悪いのは、言っちゃ悪いがあいつらだ。陛下も彼らを罰するつもりだったんだろう? クエンが助かったのは奇跡だった。本当なら死んでたんだ。謝りにも来ないあいつらを許していいのか? 人殺しだぞ。身内殺しだ。」
「王族なら、ままあることじゃないか。王位を争うのは綺麗ごとじゃない。いいんだ。兄たちに割く時間があるなら、僕は修業がしたい。魔力制御の訓練だって、出来てなかったんだから。筋力を戻して、ボートを漕いでも疲れないほど、腕も鍛えて見せるから、ドナートも手伝えよ?」
な? と首を傾げて見つめると、はあ、とあきれたようにドナートは息を吐いた。
「それからね。奇跡は起こったんだ。ねえ、アクア。」
「アクア?」
「ドナート、初めまして。同じ主を持つ者同士、仲良くしましょう。」
「うわあああああっ」
急に目の前に顕現したアクアに、驚いてドナートは後ずさった。
「水の精霊王のアクア。僕と契約してくれたんだ。あの湖が彼の居場所だったんだけど、おかげで助けてくれた。」
「せっせっ……精霊王と契約ぅう!?」
思わずドナートの口を押えた。
「しーっこれは誰にも教えてないんだ。騒ぎになっちゃうだろうから。それに魔力は彼に搾り取られて前より自由に使える魔力が減ってるから、魔法より剣を鍛えないとね。」
「は、はあ。はあ?……俺、お前のこと守れる?役に立てる?」
口を押えていた手を離すと、思いっきり息を乱して涙目になっていた。視線がアクアと私を往復する。
「ドナート、私は十分な魔力がないといざというとき役に立たない可能性があります。ドナートが随従できない場所は私が守りますが、あなたも、主を守りなさい。それと……」
アクアが耳打ちをドナートにすると真っ赤になった。
何を話したんだろう?
首を傾げていると、赤い顔で私を見た。思わずにっこり笑うと、瞬間真っ赤になる。
面白い。
ドナートといると私は幸せだ。ドナート以外の人間が側にいるなんて考えられない。
護衛騎士になってくれると、そういった。
嬉しかった。
ドナートとアクアが何か言い争っているのを微笑ましげに見てると、何やらくらくらとしてきた。
急に目の前が暗くなる。
あ、これは魔力が減って……。
「クエン!?」
「主、あっ、魔力枯渇……」
「はあ?なんだって?……マジか。早く姿消せ!おい!」
ああ、二人とも、仲良くできそうだね。
よかった。
そして私は魔力枯渇で倒れたのだった。
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