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ダーモット伯爵領~第7話 野営~

 ダーモット伯爵領へは、主街道として整備されている広い街道をゆっくりと進む。  その街道沿いにある、街に泊まり、お金を落としていく。  途中で野営もするが、なるべく細かく宿をとる。  王族をのせる馬車を襲うような盗賊はいないはずだが、盗賊に身をやつした隣国の手先かもしれない。  特に今王が一番かわいがっている側配を、手中に収めることができれば敵対国にとって有利になるだろう。  そういう危険性を排除するために、今回この大物を引っ張ってきたということなんだろう。  どうしても移動距離の関係で、何カ所か野営する必要のある所がある。  そういう時は、広場のようになっていてこの街道を行き交う者たちの野営地になっている場所を利用する。  野営に選んだそこはそういう場所で、護衛があたりを警戒し、その内側で火を起こして食事を用意していた。  馬車に乗っている私たちは、馬車の中で寝ることになっていて、護衛騎士たちと冒険者である勇者と大魔導士はテントで寝ることになっていた。見張りは順番に行うらしい。  野営の用意をしている最中、私とドナート、そして勇者と大魔導士は街道に沿って広がる森に一歩踏み込んでいた。  野営地からそれほど離れていない森の中の少し空いた空間を見つけて、そこで鍛錬をしようということになった。 「クエンティン、確認だが、お前の中に3種類の魔力が見える。一つは青色の魔力、一つは赤い魔力、もう一つは聖力を帯びた、水色の魔力。そしてかなり多い方だった魔力は表に出ていない。何か、あったのか?」  魔力が3つ?  水色は……。 (アクア) 『わかった』  アクアが、顕現した。 「水の精霊か。契約したのか。視ていいか?」  興味深そうに、精霊を見る大魔導士にアクアが珍しく苦笑を浮かべた。  いつも尊大なアクアにしては珍しい。 「なるほど。精霊王の祝福がついているな。まあ、神龍の加護は限定的だが。だから魔素がざわついてたのか。俺のせいじゃなくてよかった。」 『いや、あなたのせいでもあるのですよ。……グレアム殿。』 「ん?……契約のせいで自由な魔力がないのか。まあ、成長していけば爆発的に魔力は増えるが。成長にも魔力を使うから、今の状態はいいものでもないな。魔道具で何とかするか。補助的になるが、まあいいだろう。で、ドナート、お前は魔導士に向いているな。火属性と風属性、闇属性。トリプルか。」  ドナートをじっと見つめて、大魔導士はそういったが、誰も魔法属性のことは伝えてない。 「あ、俺、鑑定の魔法使えるんだよ。クエンティンは、水と光と空間だな。お、アイテムボックス作れるな。」  私もトリプル? 空間属性は希少だ。それに光と、ドナートの闇も。  じっと私たちを見る大魔導士はしばし難しい顔をした。 「俺は、人に利用されるのは大嫌いだし、そもそもクエンティンのダッドは大嫌いだ。だが、この国はショーヤの第二の故郷になったし、クエンティンとドナートは見込みがある。だから、二人が生きやすいようにこの旅の間は協力をしよう。そして、一度だけ、無償で君たちを助けよう。命の危機が迫ったらこの指輪で俺を呼べ。守護魔法が一度きり展開する。ただ、戦争以外の協力だ。例外は戦争で負けそうになって逃げる時だけは、協力しよう。」  王が大嫌いっていいのか、こんなにはっきり言って。それに渡された指輪は凄い魔道具じゃないのか。 「この指輪を身に着けていれば発動する。俺の名を思い起こして、助けてと念じろ。それだけでいい。」  私とドナートは顔を見合わせてから、大魔導士の顔を見て頷いた。 「よし。ドナートは俺、クエンティンはショーヤに教われ。」  そうしてそれから、勇者と大魔導士の一対一の指導が始まったのだった。 「よほど君たちが気に入ったんだね。きっと君たちは強くなる。ヒ……グレアムが見込んだ弟子だからね。」 「し、師匠と呼んでいい?」  弟子、弟子だ。嬉しい。憧れの勇者の弟子。 「あー、うん。照れ臭いし、ガラじゃないけど……まあ、いいか。うん。これからよろしく。」  はにかんで微笑む勇者の指導は厳しいものだった。  ドナートはいろいろ魔法を出したり消したりしていたように思う。はっきり言ってみている余裕などなかった。  それから2時間余りの指導だったが、しばらくして夕食の支度ができたと側仕えと騎士が呼びに来た。  スープと硬いパンの食事だったが、これでもごちそうなのだ。  勇者と大魔導士は、食が進まなかったようだったけど、どうしたのだろう。 「野営の時の食事は俺が作る。」  低い声で大魔導士が言った。 「いいかな?」  大魔導士の妙な迫力に気圧されて、ハディーは戸惑った顔で頷いていた。  急に立ち上がった大魔導士は、スープの鍋の前に行き、何かを投入した。 「ドナート、ちょっと来い。」  指名されたドナートはびっくりした顔をしてきょろきょろして、慌てて立ち上がって大魔導士の傍に行った。 「お前も覚えろ。いいか、食事は大事なんだ。」  戸惑った顔で頷いているドナートが、なんだか可哀想になってきたが、大魔導士の教育の一環として弟子に伝えるものなのかもしれない。 「まあ、グレアムは料理が大得意だから任せればいいよ。」  くすくすと勇者が笑っているが、ハディーも騎士たちも側仕えも戸惑った顔で二人を見つめるばかりだった。 「お、おいし、い……」  どうやら味付けと、食材を追加されたスープはさっきの薄い塩水のようなものではなく、入っている具材の味がし、甘みとコクのある味わいになっていた。野菜と鶏肉がよく煮込まれて、柔らかく少しピリッとするのは香辛料だろうか。あまりのおいしさに、皆黙ってスープを啜っていた。 「ドナートにも仕込むから、騎士になって野営で栄養失調にならないようにしろよ。」 「頑張ります。クエンティン様。」  よそ行きの顔でそういったドナートの決意に満ちた顔に、なんだか嬉しくて思わず笑みが浮かんだ。 「うん。ありがとう。頼もしいよ。」  それからの野営の食事が楽しみになったのは言うまでもない。

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