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貴族学院~第14話 嫉妬~

 ドナートが茶器を片付けている間に寝室で浄化の魔法を使ってから、寝間着に着替えた。  ベッドに入って、ドナートを待った。  明かりを消した寝室に、ドナートが入ってくる。  闇になれた目に、ドナートのむすっとした顔が映った。  思わず笑ってしまう。そんなに嫌なのだろうか。 「明日も早いんだ。早く寝よう?」  ぽんぽんと自分の隣を叩く。 「寝る、んだな?」  確かめるようにドナートが言いながら、ベッドに膝をのせると少しベッドが沈んだ。  ドキリと胸が鳴る。上掛けの中に滑り込んでくるドナートに手を伸ばした。 「おやすみ。」  向かい合わせに抱き着いて、目を閉じる。  背中に手が回って優しく抱き込まれた。  その温かさに、すぐ眠りに落ちていった。  目が覚めて、目の前にドナートの顔があった。  一瞬驚くが、そう言えば一緒に寝ろと言ったと思いだす。 「ふふ。朝からドナートの顔見られるなんて、眼福だ。」  まつ毛や眉は髪と同じ赤。カーテンから漏れる陽光にうっすらと煌めいていた。  寝間着の、開いた襟からのぞく鎖骨に影ができている。  そっと指でなぞって、胸の厚みを知る。  私は筋肉がつかない体質なので、羨ましく感じる。 「ずるい……」  そう呟くと、なぞっていた手を掴まれた。 「何がずるいんですか?」  掴れた手を動かせなくて、もう片手でドナートの胸を押すように触った。 「この筋肉。同じように鍛錬しているのに、僕にはつかない。」  あきれた顔をするのに、口が尖ってしまった。 「個人個人、体質が違うんですから、当たり前でしょう。それに、ムキムキのクエンティン様はちょっと……」  ドナートは言ってそっと視線を逸らした。  まあ、この顔には似合わないな。どちらかというとフィメル寄りなんだし。 「もしかしたら、付くかもしれないじゃないか。チャレンジは続行するぞ。それに二人きりなんだから、クエンって呼べ。」  逸れていた視線が戻って何とも言えない表情をする。なんなんだ。 「もう、クエンは。俺を殺す気か。」 「は?」  キョトンとして首を傾げる。今の会話のどこに、そんな要素があったんだ。 「そんな顔をするな。ったく」  チュッとキスをされた。 「おはよう。」  ドナートが、唇を触れたまま朝の挨拶を口にした。 「おはよう、ドナート。」  嬉しくて、自分からも吸い上げた。でも残念だが、もうそろそろ、授業に行かなくては。 「クエン……」  チュッとキスをしてくれたドナートは、慌てて朝の支度をしに部屋を出ていった。  その日の夕方、ドナートの着替えは、私の寝室のクローゼットに移動した。  寝間着はもう、必要がなくなった。  普通に寝ることもあるが、夜はかなりの頻度で、お互いを慰め合うようになった。  キスも、二人で寝室にいるときはためらわずしたい時にするようになった。  これが主従や幼馴染ですることじゃないと、お互いにわかってはいるが、口には出さない。  ばれたら閨教育の一環ですと通すつもりだ。  覗きでもしなければわからない。私に影などついていないことは知っている。  が、いたとしてもわからないだろう。  それに、ドナートが、大魔導士譲りの結界を張っている。  一旦張ったら、朝になっても消すまで消えない優れものだった。  なんでも、見えない、聞こえない、通さない、らしい。  中からは見えるし聞こえるし、出ることもできるそうだ。  いつの間にと聞いたら、最初に覚えろって言われたそうだ。  しれっと言っていたが、こういう時に使うのかと感心していた。  ドナートは優秀だが、時々アホになるな。  まあ、そこも可愛いけれど。  ドナートは一年で10cmは背が伸びた。私はその半分ほど。172cmと160cmだ。  更に体の厚みがもう違う。ドナートの身体には筋肉がみっしり詰まっているように固いのだ。  日々見ている私は同じメイルなのにこうも違うかと、悔しい限りだ。  私たちは二年目の学院生活の始まりに身体測定と魔力値の計測を受けていた。  その結果だ。  その際、性に目覚めているものは別々の部屋で受けた。  そこで、メイルかフィメルかが周知されてしまった。  約8割以上が、目覚めていた。残りの者もこの一年でどちらかわかるだろう。  私たちがメイルとわかってから、声をかけてくるものが増えた。  一応学院では身分の差は授業の妨げになることもあるから、声をかけること自体は不敬にはならない。  だが、私に声をかけるには、側仕えであるドナートにまず声をかけて、了承を取るのが通例なので、ハードルが高いのか私に対してはそれほどはない。  劇的に増えたのは、ドナートの方だった。  側仕えは、側仕えに必要な物を学ぶ。だから、私とドナートが別々に授業を受ける時もある。  この時はやはり別の選択授業を受けていて、次の授業を受けようと、移動していたところだった。  廊下の先で見た、ドナートにすり寄るフィメル。  ドナートは軽くあしらっていたようだったが、フィメルの憧憬を含んだ瞳が、細い肩が、美しい指先が、自分のほうが彼にふさわしいと言っているようで。  私は逃げた。  言い寄られるドナートは、見たくなかった。遠回りで教室に向かい、遅刻ギリギリだったのは仕方がない。

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