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【番外編】冬の花(3)
ギルドに進められた居酒屋で風味豊かな夕食を楽しみ、宿に戻ると暖炉の火が心地よい音を立てて燃えていた。ギルドが用意した部屋は至れり尽くせりで、湯を満たした浴槽の横には清潔な夜着とガウンが用意されている。石鹸は春の花の香りがして、温まったソールの髪や体からも同じ匂いが立ちのぼる。
暖炉の前の肘掛椅子に座ったソールに、クルトはそっと贈り物の包みを差し出す。
「これを貰ってほしい」
「クルト?」
「今日は冬至だから」
ソールは眼をみひらいてクルトをみつめた。
「ごめん、クルト。僕は何も用意していない……」
「そんなの、いいんだ」
クルトはじっとソールの眸をみつめる。暖炉の火が映って橙色にきらめく。
「貰ってくれる?」
「――ああ」
細い指が包みをひらいた。磨かれた木のふたをあけると、厚い板をくりぬいた中に海の色をしたペンダントが鎮座している。
ソールが小さく息をのんだのがきこえた。
「クルト、こんな――高価なもの、僕は……」
「そういうと思ったけど、他にぴったりな贈り物がみつからなくて」
クルトは正面から笑いかける。「これはソールのものだ」
ソールの指がそっと宝石に触れた。
「きれいだ」とつぶやく。
「そうだろう? 明かりに透かすと海の底みたいにみえるんだ」
「ああ、そうだね……」
ソールは鎖を手のひらに絡め、ペンダントを暖炉の光にかざした。緑、青、さらに深い青。そこに暖炉の火がちろちろと映る。
「ねえ、俺がつけてもいいかな」
クルトはそっと台座に触れた。ソールがうなずくのを待って椅子の後ろに回り、鎖を広げる。鎖は親指の爪ほどの幅があり、白金を叩きのばして繊細に編んだものだ。中央から下がる台座も白金で、海の色をした石が嵌めこまれている。鎖の色も石の色もソールの髪と眸によく似合う。細い首に巻きつけると、なめらかな皮膚に張り付くようにおさまった。
「きれいだ」
かがんで、うなじの上でしっとりと光をおびる金属にキスをする。ソールの体がぴくりと震える。
「クルト――ありがとう……」
かすれた声が耳に入るとクルトの中で欲望がもくもくと頭をもたげた。ずっと心のうちに留めていたことを試してみたい、という気持ちが抑えられなくなる。
「ソール、すこしだけ……変わったこと、していい?」
「変わったこと?」
いぶかしげに恋人が返し、こちらを向こうとするのを顎をよせてとめ、耳元でとっておきの声を出す。
「お願い」
「……いいけど……何?」
「眼をつぶって。手を貸して」
ソールは怪訝な顔をしたまま、クルトがうながすままに眼を閉じた。クルトはソールのガウンを肩から落とし、両手を椅子の背へ回させる。自分のガウンのポケットからリボンを引き出す。石と同じ海の色をしている。閉じた瞼の上にリボンをそっと巻く。
「クルト?」
「お願い、じっとして」
うしろに回した両手首にリボンをまきつけて縛る。白い肌に深い青が映える。
「クルト――あの……」
今度はソールの足首にリボンをまきつけ、椅子の脚に結びつけた。右足と、左足。足首の環を避けて、肌に直接触れるようにする。ソールの吐息が荒くなる。
「クルト――」
「ごめん、怖い?」
「いや……きみなら……怖くは……」
「よかった」
クルトは椅子の前にまわり、ひざをついてソールの夜着のボタンをはずしていく。下げられる限界まで布を引き下ろし、白い肩と胸を空気にさらす。むきだしにされた左の乳首にキスをする。
「あっ……」
手足を拘束されたままでソールが身をよじらせた。クルトはキスを下へずらしながら指をすすめ、恋人の腰をそっとなぞる。
「あ……んっ」
甘い声に思わず微笑みがもれる。ソールの腰を軽く持ち上げるようにして、下穿きを一気に膝まで下げた。
「クルト……こんなの……」
「イヤ?」
「恥ずかし――ああっ…」
尖った乳首を右も左も同時に指ではじくと、ソールからこらえきれないとでもいうように声があふれる。
「クルト、」
「ちょっと変わったこと」
クルトはささやいてソールの中心を手のひらで覆った。すでに上を向いて立ち上がり、触れるとうすく滴りがにじんでいる。
「するの、イヤ?」
「どうして……」
「ソールのいろんな可愛いところをみたいから」
「や、あ……」
口づけるとおずおずと舌が絡まってくる。クルトは唇をあわせながら指先で肌に触れるだけの愛撫をじっくりと繰り返した。
目隠しをされたまま喘いでいるソールに自分が興奮しているのはもちろんだが、ソールの中心からも雫がこぼれ、クルトの指を濡らす。
「すごいよ、ソール。こんなになってる」
ささやきながら先端をなぞると、ソールは熱っぽい吐息をもらす。
「クルト……やっ……ああん」
「イヤ? でもほら……見る?」クルトは手をのばし、ソールの眼を覆ったリボンを解いた。
「ソールのここがどうなってるか、見て」
だがソールはぎゅっと眼を閉じたままだ。イヤイヤをするように首を揺らす。
「どうして?」
「だって……恥ずかしい――」
「こんなになってるのに?」
「クルト、」
「俺のもみて……ソールが可愛いから、こんなだよ……」
クルトは自分の夜着の前もあけ、堅く張りつめたクルト自身をソールの膝におしつける。ソールの眼がそっと開かれ、クルトの視線と視線が合う。鎖骨のあいだでペンダントの石がゆらゆらと揺れる。
「クルト――あっ、あっ―――ああん」
膝から中心へ唇をすべらせていくとソールは耐えられないように腰をゆらして悶え、わずかな刺激で白濁をとばした。膝に散ったそれをクルトは舐めとり、這いつくばるようにして拘束された足首に口づけ、足の指を舐める。
「クルト――だめ……」
切れ切れの声でソールがつぶやく。一度達したのにその中心はまた立ち上がろうとして、切なげに雫をあふれさせている。クルトは脚から膝へ唇をずらし、そっと歯を立てる。
「くすぐったい?」
「そうじゃなくて……あ、んっ……」
「何、ソール……」
「ちゃんと――」
「何?」
「ちゃんと抱いて……お願い……」
膝をついて見上げたソールの頬は内側の熱のせいか、羞恥のせいか、上気して紅い。腕を背後にまわした姿勢が負担なのだろう、眉間にかすかな苦痛の皺が寄る。その表情にもさらにそそられるが、クルトは足首のリボン、手首のリボンと順番に解いていった。
ほっとしたようにソールの体から力が抜けたところで、膝の下に腕を差し込んで抱き上げた。
「あっ――クルト」
「ちゃんと抱いてあげる」
寝台にソールをうつぶせに横たえ、まとわりつく夜着をはぎとる。自分も裸になって背中から抱きしめ、首筋にキスをおとす。
町で手に入れたガラス瓶の栓をあけた。潤滑油を手のひらに落とし、ソールの後口を指で探る。熱帯の花独特の濃い強い香りが立つ。ソールがまた腰をゆらして悶える。
「クルト……なんだか変――」
「大丈夫。すこし特別なだけ」
屋台の女主人がいったとおり、ただの潤滑油で、媚薬ではない。しかし特別な成分が含まれているせいで、ソールの中はすぐにほぐれて熱くなり、クルトの指の動きに合わせるかのように大きな声がもれた。
「クルト――あ――怖いっあっあっ……おかしくなる――あ――」
いつもならこんなに乱れないように耐えるソールなのに、もう抑えられないのだ。そう悟ったクルトの興奮もどうしようもない。なのにまだ恋人を焦らしたくて、入口に熱く猛る自身を押しあてながらソールの胸をまさぐる。
「大丈夫だよ……ソール……」
「あっ……クルト……だ、め……熱くて――」
「いれるよ……」
がくがくとソールが首を振り、ペンダントの宝石がゆれた。クルトは腰をゆっくりと進める。ほぐれた内側がひくひくと収縮し、気持ちよさに脳髄がしびれる。
「ソール……可愛い……好きだよ……」
「ああんっクルト――あ――あ――」
ソールはクルトの動きに合わせるように腰をふる。獣じみた姿勢で、唇の端からこぼれた唾液が敷布の上にぽたりと落ちた。
「愛してる……」
「ああっ……僕も――あ……んっもっと……」
暖炉で炎が何度もはじけた。
薪の燃える匂いと花の香りが部屋の中にまざりあい、漂っていく。
「ソール……怒ってる?」
翌朝クルトが目覚めると、ソールは顔を敷布に埋めたままクルトを見ようとしなかった。
「ごめん。イヤだった?」
目覚めているのはわかっている。クルトは恋人の背中をさすり、首に巻きついた鎖を指でなぞり、拒絶されないのにほっとする。昨夜はあきらかに――やりすぎだ。たぶん。自分でもそう思っている。にも関わらずいまの自分の顔はきっとだらしない。昨夜のソールの痴態を思い浮かべただけでもうだめだ。さらに何がだめだといって、今朝の自分の下半身が、また。
「……イヤじゃない……けど……」
かすかな声が枕と敷布のあいだから聞こえた。思わずクルトが返した声はかなりうわずったものだった。
「ほんとに?」
「や……やっぱりイヤ……」
ソールがゆっくりと枕から顔をあげる。その首元で海の色をした宝石が揺れている。
「クルト……きみは」
「俺?」クルトはとっておきの笑顔で微笑んだ。
「きみ――」何かいいかけたソールの顔が真っ赤になる。
「なんでもない」
「いって、ソール」
「イヤだ。絶対いわない」
ソールはかすれた声でつぶやくと、クルトに背を向けて壁を向いてしまった。クルトは細い背中にかぶさるようにして腕をまわし、恋人の首に巻きつけた鎖へ唇を押しつけた。
「ごめん、もうしないから。昨日みたいなの」
するとソールはかすかに首を振った。耳のうしろまで赤みがのぼっている。
「……しても――してもいいけど……」
その先は声にならなかった。抱きしめたソールの体の重みと肌の匂いが心地よく、クルトはうっとりと眼を閉じる。窓の外でポンポンと音が響いた。祭りの合図だ。
「ソール、花火だ。きっと空にも海にも、冬の花がみえるよ」
腕の中の温もりがそっとうなずいた。
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