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第3-2話頼られるのは嬉しい
おもむろに私の隣へ詠士が座る。
特に何もない平静な顔でジッと見つめられて、私も思わず見つめ返してしまう。
しばらく無言が部屋の中を漂う。
けれど気まずさや息苦しさはない。
まだこれが現実なのだと思えず、正直夢の中にいるようだ。
私の日常に詠士がいる。触れなくとも息づかいや体温が分かってしまうほど間近に。
心音が少し速くなる。こういう時は大抵どうなるかは学習済みだ。
ゆらり、と詠士の体が動くのを見て、自然と私のまぶたは閉じていく。
軽く首を伸ばせば、思った通りの柔らかな感触が唇に広がる。
一度繋がり合った体は、軽い触れ合いだけでも蕩けていく。
力が抜けてしまう私の肩を掴み、詠士がゆっくりと体を横たわらせてくる。
そのまま一緒に抱き合って互いの熱にしばらく酔いしれてから、私は顔を離し、詠士の額を軽く小突いた。
「さすがに今夜は休ませてくれ。帰国してすぐは気力も体も持たないよ」
「分かってる。だから、こうして一緒に眠らせてくれ……いいだろ?」
「それぐらいなら構わないが、眠りにくくないか?」
「いいや……こうでもしないと、真太郎と一緒にいられるのが信じられなくてな。まだ怖いんだよ。パートナーになれたっていうのが、ただの夢なんじゃないかって」
……詠士、君も同じ気持ちなのか。
私は顔を綻ばせて、非力な腕を詠士に絡ませる。
自ら体を密着させ詠士の匂いを吸い込めば、ほんの少しだけ現実味が生まれる。
きっと今は何をやっても夢見心地なのだろうな。
そんなことを思いながら、私は詠士の腕に包まれて眠りの世界へと沈んでいった。
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