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第1-2話一足早い目覚め
それでも料理を作りたい欲はずっと強かった。
多忙な真太郎が構ってやれない分、息子の主真を相手にしていたから、少しでも喜んでもらいたくて料理を覚えていったということもある。
何より手間をかければそれだけ時間がかかる。それに集中している時間は、真太郎のことを考えてしまわずに済む。だから料理人になって店を出す気がないのに、料理の腕を無駄に上げてしまった。
完成してひとりで食べる時、真太郎も姉貴もいないという現実に胸が締め付けられたが。
「んー……よし。今日は出し巻き玉子でも作るか」
一度大きく背伸びをしてから、俺はスウェットの袖をまくり上げて料理の準備を始める。
事前に作っておいた出汁を冷蔵庫から取り出し、ボウルに割った卵と一緒にいれて菜箸で手早く混ぜる。
人によって玉子焼きは甘いほうが好まれたり、しょっぱいほうが喜ばれたりする。真太郎はどちらかといえば甘めを好む。ただし甘すぎるよりも、ほんのりと控えめな甘さのほうが反応はいい。
一つまみ地元の浜塩を入れ、きび糖とハチミツを少量ずつ加える。
泡は立てずにしっかりと混ぜてから、今度は少量の水溶き片栗粉を入れる。柔らかな玉子焼きを作るためのコツだ。
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