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第3-1話楽しみに敏感なのは

 昆布とカツオでとった出汁が顔の奥まで旨みを届け、口の中で咀嚼する度に消えていく玉子の柔らかさに歯の動きが優しくなる。  甘みはしつこくなく、舌がじんわりと味わい喜ぶ。これが小さい子供ならば甘みが足らないと唇を尖らすだろうが、俺たちにはこれぐらいが丁度いい。  我ながら上手くできた。  自負でにやけてしまう俺を見て、真太郎がにこやかに笑う。 「詠士は自分が楽しいと思えることに敏感だな。羨ましいよ……私はこの年まで自分の楽しみというものを考えてこなかったから、見つけ方が分からないんだ」  真太郎の言葉は嫌味じゃない。  ずっと姉貴への贖罪のため、がむしゃらに突き進んできた男だ。楽しみどころか、自分が少しでも楽になることすら考えなかったと思う。そんな奴だからこそ俺は放っておけなかった。  だが真太郎には悪いが、そんな奴で良かったとも思っている。  そうでもなければ今頃は別の相手に助けを求め、寄り添う相手を作っていただろうし、同性である俺の手を取るなんてことはしなかっただろうから。  胸の中に淀んだものが生まれるのを感じながら、それを押し殺して俺は不敵に笑う。 「これから俺が教えてやるよ。一緒に楽しめることは、もういくつも見つけていることだし……もっと教えていくからな、真太郎」

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