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第10-1話優しく甘く飢える日々

   ◆ ◆ ◆ 「――まったく……いつも言っているだろう。年を考えろ。お互いに無理できる年じゃないんだぞ」  普段よりも少し遅くなった夕食――手早く作った生姜焼きとご飯にインスタントの味噌汁。そんな日もある――を口にしながら、真太郎が俺に小言をぶつけてくる。  ほぼ俺が想定した通りの文句で危うく吹き出しかける。期待を裏切らない男へ密かに心を高揚させながら、俺は平静を装いつつ言葉を返す。 「でも悪くなかっただろ? 真太郎、キスされながらイくの好きだし」 「……っ! 食事中に、そんなことを言わないでくれ……っ」 「ははっ、やっぱり素直だな。こんな時でも否定の言葉が出ないんだから」  俺の指摘に真太郎が目を見開く。まったく自覚していなかったらしい。  すぐに頬を染めて頭を抱えると、真太郎はため息の後に長々と唸った。 「うう……なんてことを教えてくれたんだ……」 「それだけ俺に身も心も委ねてくれているんだろ? なんの疑いもなく、俺を心から受け入れてくれている……嬉しくて顔がにやけてしまうな」  綻ぶ口元を手で覆いながら真太郎の様子をうかがっていると、動揺を見せながらわずかに潤んだ目が俺を射貫いた。 「……否定はしない。君が望むなら応えたいし、疑う時間がもったいない。私たちがこうして過ごせる時間には、限りがあるから」  真太郎の言葉に俺は小さく息を呑む。  気づいてくれていたんだな。  俺たちはともに四十代。身体的に心置きなく交われる時間は、そう長くはないだろう。

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