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第7-1話炉端の夜は温かく過ぎて

 酒が入っているせいで、詠士の口が滑りやすくなっている気がする。  このままいくと変なことを口走りそうで、私はやんわりと詠士のグラスを取り上げた。 「飲み過ぎはよくないぞ。……君の要領の良さを考えたら、どうしてこれが分からないのだろうと不思議には思っていたが、そんな理由があったとは」 「あっ、あともう少しだけ――昔から目的がハッキリしていると上手く力が出せるんだ。主真、もし成績に伸び悩んでいたら、どこを克服したいかって目的作ってやるといいぞ。点数よりも目の前の目的重視。ゲーム感覚で燃えてくるぞ」  自分の話から主真へのアドバイスに繋げてくるとは、さすが現役社長。機転が利く。  私と同じく半ば呆れた顔をしていた主真だったが、話を聞くにつれて感心したように唸り始める。 「んー……確かに点数ばっかり気にしてたかも。大学で何をやりたいかっていう目的はハッキリしてるけど、勉強のほうまでは意識してなかったなあ」  一度大きく背伸びをしてから主真は体を起こし、少し照れくさそうに頬を掻く。 「俺は父さんと違って根性も体力もないから、その分防災を学んで研究できたらなあ……って考えてる。被害が出ないように前もって準備できたら、父さんが危険な現場へ行かなくてもいいのに、って思ってたから」

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