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第5-2話彼を変えた男

 笑いながらそう言うと、武井はひと口茶を含んで喉を潤す。それから虚空を見上げ、柔らかに目を細める。 「私は事故に遭う前から、ずっと暗い中で足掻き続けていました……それに気づいていた人が、事故で私が耐えられなくなったと察して手を差し伸べ、助けてくれたんです」  ふと俺の頭に、武井を連れて来た運転手の男が浮かぶ。 「もしかして先ほどの彼ですか?」 「はは……ええ、そうです。私の亡き妻の弟です。彼が支えてくれたおかげで、随分と変わってしまいました。未だにこのまま彼に甘えてもいいのだろうか、と考えてしまいますが」  ただの義弟に感謝を口にする割には、やけに声のトーンが優しい。むしろ最愛の妻や恋人を語るような雰囲気が漂っている。  まさか……。  察してしまった俺に気づいたのか、武井が気恥ずかしげに頬を掻いた。 「……彼は互いになくてはならない、大切なパートナーです」  照れながらも隠さずに武井からカミングアウトされて、俺は目を点にしてしまう。  昨今、同性愛への偏見は前よりも薄れてはきたが、それでも未だに根強い。少なくとも俺には理解できない世界だ。  これが他の人間なら俺とは違う世界で生きているのだと割り切れるが、武井は別だ。  相手が同性であること以上に、誰かを受け入れて変わることができた、という事実が信じられない。

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