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第6-2話公私の切り替え
ククッ、と喉で押し殺した笑いを漏らしながら、詠士が手前にあった天ぷらの盛り合わせを俺に差し出す。
「という訳で、これ食べてみろ。特にタラの芽。美味いぞ」
言われるままに箸を伸ばしてタラの芽を取り、汁に軽くつけて口にする。サクサクとした衣の小気味よい感触に、ナッツの香ばしさに近い山の息吹が私の顔を晴れやかにした。
「確かに美味しい。いっそこれだけの盛り合わせを、気が済むまで食べたいところだな」
「そう言うと思って、先に予約して頼んでおいた。もうそろそろ来るんじゃないか?」
詠士……っ、君と言う奴は!
一瞬、学生の頃のテンションが戻ってしまい、勢いのまま肩を組んで喜び合いたい衝動が込み上げる。
体に障害がなければ本当にやっていたかもしれない。
どうしても詠士が相手だと心のタカが外れやすい。ふとお互いに若い時のままな気がすることもあるほどだ。
公の場でも、一瞬で私事の空気を作れてしまう。
それだけ二人して気を許し、多くのものを溶かし交えた証だ。
一人だけとはいえ、すんなりと浜松さんに詠士のことを言えたのもそのひとつだ。
もう私にとってはともに生きることが当たり前な、残りの人生をすべて預けたパートナー。恥ずべきものではない。
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