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第3‐2話長い抱擁

 せめて思い通りに動かせる所だけでも動かそうと、私は詠士の顔へ頬を当て、少しでも触れ合う部分を増やす。  特に何も言わなかったが、そんな私の望みに詠士が気づいたように強い抱擁を与えてくれる。  少し感じてしまう痛みと、よりはっきりと感じる詠士の体に私は感じ入る。思わず吐息が零れ、息が抜けるほどに一体感が増していく。  激しくまぐわっていないのに、いつになく強く求められている気がする。  そう思うと自分の鼓動が速さを増していくのが分かった。 「あー……そろそろ夕飯の準備をしなきゃ駄目なんだがな。真太郎から離れたくない」  詠士のぼやきで、私は外の明るさが翳り始めていることに気づく。  私も離れたくないが、生活に支障を出すことも嫌だ。  それでも詠士から離れ難くて、私がしがみつく腕を緩めずにいると、 「今日は楽して時間を得るか」 「何を作るんだ?」 「冷凍したご飯でリゾットを作る。すぐ完成するから、ギリギリまでこのままでいられる」  小さく笑いながら詠士が私を深く抱き込む。  普段から米を多めに炊いて冷凍保存していたのは知っていたが、そんな応用の仕方もあったか。  スピード料理でも味は手を抜かない詠士だ。  長い抱擁が終わった後は別の幸せが待っていると分かり、私の顔がいつにもまして緩んだ。

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