89 / 111
第5-2話朝から夢見心地で
ああ、声だけで腰が抜けそうだ。
思わず胸元へ縋ってしまう私の体を支え、詠士は近くの椅子へ座らせてくれる。
これでしばらく離れなければいけないのかと、詠士の体が離れかける気配にため息が零れそうだ。
まるで恋に浮かれる中学生のような気分だ。相手のちょっとした動きに心が翻弄され、一喜一憂してしまう。
詠士を受け入れるまで、恋愛とは無縁な人生を送っていた私が、ここまで恋に流されるなんて……。
もどかしい思いを顔に出していると、離れたと思った詠士の顔が再び近づき、一度だけ深いキスをしてくれた。
朝から詠士のことでいっぱいだ。
今日だけはそんな日で構わないだろうと、私は今の自分を早々に受け入れる。
こうなるともう、触れ合う快感だけでなく、離れている間のもどかしさすら愛おしくてたまらない。
ぼうっ、となって見惚れる私へ、詠士は片目を閉じた。
「あともうすぐで朝食ができるぞ。今日は中華粥だ。クコの実で飾って、仕上げにゴマ油を垂らせば完成だ」
言いながら詠士が器によそった粥へゴマ油を数滴加えれば、香ばしい匂いが漂ってくる。
真っ先に胃袋が満たされたいと、私の中で小さく音が鳴る。
食欲にまで素直な体に苦笑するしかなかった。
ともだちにシェアしよう!