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第6-1話待つ幸せ

   ◇ ◇ ◇  食事を終え、ひと息ついてから私は風呂を浴びた。  こんなに朝から心臓を高鳴らせながら身を清めるなんて、初めて繋がった時でもここまでではなかった。  あの時はまだこの体がどうなるか、ということがよく分かっていなかった。  しかし今は詠士と繋がる快感を知っている。そして数日かけて求めたがるよう育てられた体は今までになく過敏になり、今までにない感覚を知ることになる予感しかしない。  期待と、早く交わりたいという焦燥で動悸が収まらない。  肩まで湯に浸かりながら私は息をつく。火照った息が風呂で温まったせいなのか、体の欲求が高まるばかりのせいなのか、判断がつかなかった。  焦る気持ちを宥めながら浴衣をまとった私は、寝室へと向かい詠士を待つ。  敷布団を汚さぬようにと上に敷かれた、水色の大きな薄手のマット。  置かれた枕の傍にはローションと箱入りのコンドーム。  いつもなら最初からここまで準備されていると、羞恥が勝って逃げ出したくなる。  あくまでもいつもなら、だ。今日はようやく体が満たされると心が浮かれ、詠士を早く招きたくてたまらない。  ゆっくりとマットの上に座り、自分の胸へ手を置く。  本当にこれが私のものなのかと疑いたくなるほどの、騒がしい心音。  これだけ求めたい相手と、今から抱き合うことができる――なんて恵まれているのだろう、と幸せを噛み締める。

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