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第6-2話待つ幸せ
しばらく目を閉じて自分の高揚を感じ取っていると、襖の向こうから詠士の足音が聞こえてきた。
毎度入浴する時は私が先に入り、後で詠士が入るという順番。だから寝室で詠士の足音を毎日聞いているのだが……今日はいつになく速い。そもそも入浴の時間も速い。しっかりと湯に浸かって温まっていないのが丸分かりだ。
焦ったところで一分一秒を争うものではない――と普段なら顔を見て早々に釘を刺してしまうだろう。
けれど今日は間違ってもそんなことは言わない。それだけ詠士も私と繋がりたくて我慢できないという証。共感と喜びを覚えこそすれ、説教で時間を割くなど無意味で酷だ。
バンッ、と。詠士が勢いよく襖を開ける。
洋服ではなく、詠士も浴衣をまとっている。髪を乾かす時間も惜しかったらしく、しっとりとした髪が緩やかにうねり、いくつか束になって前へ垂れていた。
「待たせたな、真太郎」
言いながら詠士が私の向かい側へどかりと座る。
早く触れたいはずなのに、互いに視線を合わせて見つめ合ってしまう。
――これだけで体の奥が疼いて、身悶えそうになってくる。変わり果てた体に思わず私は吹き出した。
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