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第2話 短い間の逢瀬
『大人は良いよなぁ、宿題とか出されないからさぁ。』
『言ってないでやりましょうね。私も昔は色んな宿題を出されましたよ。』
『桜はサボらずやってたっぽいね。』
『当然です。』
『ねえ、終わったら今日は何して遊ぶ?木登りは飽きたし…て、此処の桜は何でずっと咲いてるの?』
『…私にも解りません。ずっと咲いているんですよ。何かを見守っているのかもしれませんね。』
『ふーん、不思議だね。』
『そうですね。本当に不思議な桜です。』
『桜って自分の事?』
『違いますよ。…でも、ある意味私の存在は不思議なのかもしれませんね。』
物思いに耽るように呟くとずっと変わらずに咲いている桜の意味を自分と重ね雪斗と重ねては少し悲しい顔をしていた。勿論雪斗はそれを見逃さない。
『桜、元気ない?』
『え?』
『桜が元気ないと俺も元気失くなってくるよ?何でかなぁ…。』
『何ででしょうね。でも、それなら私はずっと元気で居なければいけませんね。雪斗から元気を奪いたくありませんし。』
『無理はしなくて良いからね?』
『はい、ありがとう御座います。』
お互いがお互いを大事にしている。雪斗にとって学校での友達と遊ぶより桜と遊んでいる方が数倍楽しくて仕方なかった。桜はいつも優しく穏やかで一緒に居ると安心するような心地良さを雪斗に与えてくれる。
雪斗にとって桜の存在は誰よりも大きかった。
そんなある日、家族揃って夕飯を食べていると両親から信じられない言葉を聞かされた。
『雪斗、来月から新しい場所に住む事になるぞ〜父さん頑張ったから栄転出来る事になったんだ。今度は田舎じゃなくて都会に行くんだぞ〜嬉しいだろ?』
『お父さん頑張ったのよ。これは凄い事なの、勿論雪斗も喜んでくれるわよね?』
嘘だ…。雪斗は此処を離れないといけない事実に嬉しいどころかショックを覚えた。此処を離れればもう桜には逢えない。桜と遊べない。栄転と言われても小学生の雪斗には意味が解らない。確かなのは今は両親の為に喜んでいるフリをしなければならないと言う事だ。
『…うん!嬉しいよ!父さん凄いね!』
泣きそうな感情を押し殺し雪斗は笑顔でそう言った。
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