3 / 5

第3話 少年と青年の別れ

その日初めて雪斗は学校をサボった。朝からあの林へと向かい桜の待つ桜の木へと向かったのだ。 『桜!!』 『…雪斗』 桜はもう既に知っているのではないかと思うくらいに落ち着いてはいるが、寂しそうな笑みを雪斗に向けた。 『どうしたのですか?学校は?』 『学校なんか行ってる場合じゃないんだよ!!桜!桜!!』 雪斗は桜に思い切り抱き付いて泣き出した。桜はそんな雪斗を包むように抱き締め返し優しく背中を擦った。 『雪斗、此処を離れるのですね。』 『っ…な、なんで…し、知ってるの…?』 泣きながら話をする雪斗の頭を撫で桜は微笑んだ。その微笑みが雪斗をまた悲しくさせた。 『雪斗の事なら何でも知っていますよ。』 『さ、さく…らは…っ俺に、逢えなくなってもいい、の?』 『勿論嫌ですよ。でも、子供は親の元でないと暮らせません。あんな良いご両親なら尚更です。』 雪斗にも解っていた。だから何も出来ない子供で居る事が悔しくて堪らなかったのだ。 『……絶対、絶対絶対此処に戻って来るから!!そんで桜に逢いに来るから!!それまで俺の事忘れないで!!』 雪斗は決意した瞳で桜を見詰め、そんな雪斗を愛おしく思った桜も本当に花のように優しく美しく微笑みを浮かべては頷いた。 『いつまでも待っていますよ。』 ー雪斗が本当に忘れなければ、私はずっとずっと雪斗を待っています。 『さよならなんて言わないからな?』 『はい、私も言いません』 そうして、雪斗は両親と共にこの土地を出た。桜の花弁が大きく舞った日の事だった。 ーーーーーーーーーーーーーーーー それから雪斗は必死に勉強をした。親離れをしてあの地へと戻る事を糧に必死に。それまで学力が悪かったので両親は驚き初めは友達が出来ない事で勉強に打ち込んでいるのかと思い心配をしてはいたが、学校の様子を聞くとそうでもなく、友達とも普通に遊んでいる時もあると聞き安心すると今度は逆に勉学に励む息子を応援していた。 『雪斗、夜食よ。これを食べて勉強頑張ってね。』 『ありがとう、母さん。』 『雪斗、頑張ってるな。高学歴は武器になる父さんのように頑張るんだぞ。』 『解ってるよ、父さん。』 家では両親に期待をされ…。 『なぁ、雪斗〜マジでそんなに勉強してて楽しいか〜?』 『本当、東宮くん、勉強ばっかりだよね。格好良いからモテるのに全然女の子に興味ないし、吃驚する程勉強ばっかりなんだもん。』 『俺だったらそんだけイケメンなら女の子と遊ぶのにな〜』 『別にイケメンじゃないし、勉強の方が今は好きだし大事なんだよ。でも、最近何でそんなに勉強に拘ってるのか解らなくなる時とかあってさ…』 『じゃ、勉強やめて遊ぼうぜ!』 『…いいよ。キリの良い所まで終わったし、何する?』 『取り敢えず…カラオケ行こうぜ!』 『いいよ。』 雪斗はそれを切っ掛けに勉強から少しずつ遠ざかり普通の高校生活を過ごしては大学もそこそこ名門に入り教員免許を取得した。初めに目指していたあの地に戻るは覚えているものの桜が本当に存在していたのか、子供心が見せる夢だったのではないか、終いには桜の顔も思い出せなくなっていた。それでも、本能があの地へ帰れと言っているような感覚がある限り雪斗は転校したとは言え母校である小学校へ教師として就職する事に決めた。勿論両親は反対するも、親離れの為に必死に勉強した甲斐あり説得をして単身あの地へ帰る事が可能になった。 ー桜は今も居るだろうか。 そんな不安を抱え雪斗は引っ越しの準備に追われあっと言う間にあの地へと向かう日が来た。

ともだちにシェアしよう!