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ペットじゃねえよ 10

 サッと俺の両手首を掴んでシーツに縫いつけると、こいつはデカい身体を覆い被せてきた。そして細い首筋に自身の唇を充てがい、チュッと音を立てながら吸啜行為を始める。 「んあっ……はあっ……」  その部位が元から性感帯なのか、俺が特別敏感なのか……どちらにせよ、この口からは女のようなあえぎ声が上がる。断っておくが、前世で性経験が豊富だったわけでも、この身体が慣れているからでもない。ましてや女役なんて…… 「感度が良くなってきたな」 「う、るせ……ああんっ!」  いちいち余計なことをほざくこいつが、やたら声を上げさせようとしてくるのが悪いんだ。決してよがり狂っているわけじゃねえ。  散々、首周りを責められた後、「魔王」は一旦顔を起こしてうっすらと微笑んだ。蠱惑的にも映るそれは、俺が男でなかったらイチコロだろう。  やたらご満悦な様子だが、いったい何が楽しいんだろうか。俺は今、呼吸を整えるのに必死で余裕がない。吸啜の後、身体に残るのはキスマークくらいだが、マーキングくらいで喜ぶわけがない。 「はあっ……はあっ……んんむぅ」  俺は酸素を取り込みたいのに、「魔王」がそれを阻止しようと俺の口を自身のそれで塞いだ。くぐもった声と共に、粘り気のある水音が俺の耳を犯してくる。  口腔に舌を挿し込まれると、背中の辺りがゾクゾクと総毛立った。恐ろしいからか、おぞましいからか……いずれにせよ、ろくな反応じゃない。  俺の口を堪能するこいつのキスは、いったいこれまでどれだけの数をこなしてきたのか、思わずそう考えてしまうくらいに上手い。  息する隙だけは与えつつも、決して俺を離さない。絡まる舌は柔らかなのに弾力があり、無味なのに不思議な味を感じる。舌から口蓋を舐められると、臍の下が熱くなった。  気持ちいい……  不覚にも、そう思ってしまった。  キスくらい減るもんじゃなし。そんな風に軽く見ていた昔の自分をぶん殴りてえ。

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