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甘い蜜 己の罪 6
どうして酷く扱ってくれないんだろう? ただの愛玩動物で、ただの性欲処理の相手だったらこんな感情を抱かないのに。
もっと残忍で、最低な野郎なら憎めたのに……。
優しくすんなよ。甘えさせんなよ。
ただでさえこんな状況で気が狂いそうなのに。
俺は、愛に飢えていた。人の温もりに飢えていた。
ずっと、ずっと飢えていた。
前世で友だちの神木を失ってから胸の中は空っぽで、それでも人並みに生きようと必死だったけれど……駄目だった。
俺は神木のことが好きだった。
あいつのことが好きで、好きで、でもそれはずっと言えなくて。
誰にも言えなくて。
あいつが亡くなってからその思いは一層強くなって……
会いたい、会いたいって。ずっと願うようになって。
三十路を目前に控えたおっさんになっても、俺はあいつに会いたかった。
仕事を始めてからは、人恋しさも相まってしまったんだろう。今考えれば、まともな思考回路じゃなかった。
たとえ仕事が辛くとも、あいつがいれば耐えられたんじゃないかって、そう思ったこともある。
空虚で、しかし追い詰められる辛い日々から逃れたかった。
……じゃあ、会いに行けばいいんじゃないか?
納期に間に合わせるべく三日完徹をしたその日の夜、ふとそんなことを思った。
誰かが囁いたようにも聞こえるそれは頭の中でぐるぐると、バターのように蕩けて無くなるまで回った。
そして……
「はあ……」
事故なのか、病死なのか、死因は今でもわからない。でも、拠り所を失くし、仕事という山に埋もれた頭は、望んじゃいけない活路を見出だしてしまった。
どうして死んだのか、その原因はわからなくとも、その理由はわかった気がした。
なんて弱い人間なんだろう。あいつより、長く生きて人生を謳歌してやろうと誓いを立てたっていうのに。心の底では、過去にずっと囚われていたなんて。
そして一番やってはいけないことをした。
あいつを理由に、死を望んでしまった。
それだけはやっちゃいけないことだったのに!
ごめん、神木。お前はあの笑った日の翌日も、生きようとしていたってのに。
お前がいないってだけで、こんなにへたれて弱くなって……
だから、ここにいるんだろうけれど。
わかってる。俺はきっと、神様が最も嫌う死に方をしたんだよな。
重罪人だから、ここに堕とされたんだよな。
罪を受けるべき人間。奴隷となって、虐げられるのがその罰だというのなら、受け入れよう。
……けれど、おかしいんだよ。神木。
どうして俺は、ここで甘やかされる日々を送ってるんだ?
俺は罰を受けるべきなのに。
あいつは……「魔王」は俺に優しくするんだ。扱いはペットのそれだけど、すごく優しいんだ。
夜は意地悪くなるのに、今じゃそれさえも優しく感じてしまう。俺ってマゾヒストだったんだろうか?
あいつに抱かれた当初は本当に嫌だったけれど、抱き締められた時に感じたのは確かに人の温もりだった。……「魔王」なのにさ。な? おかしいだろ?
いつかは飽きて捨てられるだろう。俺はただの人間で、魔法も力もないポンコツだ。優しい言葉は今だけで、老いたら見向きもされないだろう。
覚悟はできている。だから早く捨ててくれ。お願いだから、愛情を押しつけないでくれ。
俺を溺愛しないでくれ。こっちに来ないでくれ。もうこれ以上、踏み込まないでくれ。
俺をただの、過去に囚われるだけの憐れな男のままにしてくれ。
死ぬまでずっと、神木を思ってきたんだ。それを塗り替えようとしないでくれ。
頼むよ……!
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