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まおうさま 3
俺は神木と別れた後、ゴブリンと一緒に食堂へ向かった。おやつに用意されていたのは揚げパンで、以前「美味い」と口にしてからちょくちょく作ってくれた物だった。俺の好物と認識したんだろう。手作りだから見栄えは悪いが、腹に溜まるし好きだった。
ゴブリンに礼を言うと、俺は入浴を済ませて身を整えた。怪しまれないように特別な格好はせず、けれど服の中にフォークやペン、そして残った揚げパンを詰め込んだ。シルバーは外で売れることを知っている。それに、いざという時の武器にもなる。人間だから、それで太刀打ちできるとは思わないけれど……無いよりかマシというやつだ。
逃げ出すのは夜。就寝前だ。せっかく逃げてもすぐに気づかれ、追いつかれてしまったら意味がないからな。
間食をした為、遅めの夕食を済ませると、俺はすぐに自室へ入った。疲れたから寝ることを伝えると、ゴブリンがベッドで横になる俺の身体にわざわざブランケットをかけてくれた。
ありがとな、ゴブリン。俺はゴブリンの頭を撫でた。
この屋敷に、それほど悪い奴がいないことはわかっている。むしろ人間の俺に対して優しい。「魔王」のペットだから加減をしてくれているのかもしれないが、以前のように虐げられることはなかった。
それでも俺の決意は固かった。今いる場所よりも、ずっと思い続けてきた神木と一緒に生きたかったから。
でも、何でだろう? 妙な胸騒ぎがする。「魔王」に見つかることを恐れてなのか、それとも他に懸念することがあるからなのか。
とはいえ、決行は今夜と決めたんだ。次、「魔王」がいない時なんていつになるかわからない。
今しかない。今じゃないと、駄目だ。
それより延びてしまったら、きっと揺らいでしまうから。
俺はタイミングを見図り、部屋から出ると書斎へ向かった。だだっ広いその中には、本棚がごまんと並んでいる。壁について並んでいる内の一つ、その下の本をどけると人ひとりが通れる穴があった。またその壁にも、外へと通ずる穴が空いていた。
ここを見つけたのはたまたまだったし、一度はその穴を通ってどこに通ずるかを確認していたから、外へ出られるのは間違いない。しかし、外観はともかく立派な造りの屋敷なのにここだけ穴が空いていて、しかも本で隠すという雑な塞ぎ方なのはどういうことなのか。ただ修繕費が足りなくてそのまま放置にしていただけ? 魔法が使えるというのに。
しかし気に留めても仕方ない。俺はここから、神木と一緒に外へ出る。
俺は抜け穴を通ると、せっせと前に突き進んだ。神木は無事に通っただろうか? 外へ抜け出せただろうか?
もしも俺の方が先だとしたら、おせーよってデコピンかましてやる。
それからどのくらい経ったのか、時間にしておよそ三十分くらいだろう。俺は抜け穴を塞ぐ蓋を外すと、鬱蒼と生えた茂みを掻き分け外へ出た。
久しぶりの外の地面は、思ったほどの感動もなかった。
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