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まおうさま 4
ここは森、だな。位置はわからないが、屋敷外なのは間違いない。
「神木……」
辺りを見渡すも、神木らしい人物が見当たらない。どこかに身を潜めているんだろうか? 誰かの気配だけは確かに感じるのに。
声を潜めながら、俺は神木を呼んだ。
「神木、来たぞ。エイシだ。いるのか?」
気配のする方へ適当に歩を進め、しかし魔獣とは出くわさないよう慎重になった。
まさか、まだ来ていない? だとしたら、あの出口のところまで引き返さないと……
時間が経つに連れ、心配になる。携帯電話でもあれば別なんだけど、ここにはそんなもの……
「あっ!」
と、ここで俺は通信魔法について思い出した。そうだよ、これ! ずっとつけたままだった!
通信魔法しかかかっていないのだから、発信機にはならないだろうが、「魔王」の魔法をつけたまま出てくるなんて、うかうかし過ぎだろう。
でもどうやって外す? ピアスと同じとはいえ耳朶に装着したのはあいつだし、キャッチも簡単には外せないようになっている。
気が引けるが、耳を削ぐとか……? む、無理っ! そんな痛いこと、俺にはできないっ!
いや、三ヶ月前に舌を噛み切ろうとした俺だけど! 自殺と自虐は別物よ!
「自殺、か……」
本気で逃げたかったのなら、そういった行為に及ぶこともできたはずだけど……どうしてなのか、できなかったな。
あの勇気は、あの時の一回だけで終わった。「魔王」に競り落とされてからは、不思議とそれを選ぶことはなかった。
生きて罰を受けなくては……そんな覚悟が、合わさったからかもしれない。
「魔王」。どうしているだろう? 遠征って、やっぱり大変なのかな。明日の朝には帰るというものの、楽じゃないよな。
今夜はもう、通信をかけてこないよな。いや、かけてこないでくれ。
このまま、外へ行かせてくれ。
お願い……!
「うわっ!?」
強く願ったと同時に、俺は地面に背を叩きつけられた。その拍子で、服の中に隠していたフォークやペン、揚げパンが全部、地面に落とされた。
何だ、何だ? 地震とかじゃなく、何かが当たったよな。
オークションに出される前、豚たちに捕まった時の嫌な記憶が、どうして今蘇る?
タラリと、額から冷たい汗が流れた。
ヤバい……ヤバい、ヤバい!
俺の中の警報が、パンパンと鳴り始めた。
そして、仰向けに倒れる俺の上にヌッと現れたのは、三ヶ月前にも見た気味の悪いあの司会の豚の顔。
「あんた……オークション、の……」
「へへっ。本当に出てきやがったとはな」
相変わらずのしゃがれた声。豚はオークションの時に着ていた格好ではなく、汚れたシャツにブカブカのズボンを穿いていた。上には軽度の鎧を着けており、いかにもオークらしい出で立ちで俺の前に姿を見せた。
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