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11.解放!

 時刻は六時を過ぎた。客足の途絶えた案内所は店じまいを終えて、所内に残っているのは秀と所長の後藤の二人のみとなった。雪彦はバイト初日ということで、無理をさせぬよう先に帰してある。戸締りを確認し、軽く掃き掃除をしたらめでたく退勤である。 「おいおい富久澤、ひどい顔してるなあ」 「はは……やっぱ夏バテかもしんないっすね……」 「そりゃあ大変だ。ちゃんとメシ食ってんの? 若いからって面倒がらずに栄養あるもん食えよ、オッサンになってから困るんだから」 「気をつけます。あ、でも自炊も後藤さんに拾ってもらった頃に比べたらだいぶマシになりましたよ」  この須子島観光協会の所長、後藤と出会った頃のことは、まだ記憶に新しい。二年前、アシスタントとして飛び込んだ写真館がオーナーの急死により突如閉館した。行く当てもなく、ふと訪れたこの島を彷徨っていた秀を救ったのが、この後藤だった。住処と職、そして最低限の家事知識を与えてくれた、命の恩人なのである。 「腹を壊さないってレベルでしょ? そうだ、久しぶりに飲みに行くか。景気づけに俺のおごりで」 「いいんですか!」  あからさまに目を輝かせたのを見て、後藤が苦笑している。写真というのは思いのほか出費が多く、秀はアルバイトの扱いなのもあり、どれだけ切りつめても毎月家計は火の車だ。家に帰ってもそうめんと麦茶を啜るだけの予定だったし、後藤の申し出はまだ食べ盛りの身にはありがたいものなのだ。 「おうおう、じゃ、先にまっさんとこ行ってるから。あ、山地ちゃんたちには秘密でね」 「はい!」  まっさんは後藤の古い友人で、昔ながらの居酒屋を経営している。お金が無いのに腹が空いた時にお邪魔すると、残り物を使って腹にたまるまかないを出してくれる。  秀はひらひらと手を振る後藤の背を見送り、脳裏を過る雪彦と昼間の件を振り払ってから、上機嫌に掃き掃除を終えた。

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