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第15話
「へへへ」
(ふたりが仲良くしている。そんなにこの恰好が気に入ったのかぁ。だったらコレ買ってきて正解なのかな? やっぱり兄ちゃんすごいや)
それならばふたりが大切な毛を剃ってしまったことも、許すほかない。きっとあの毛たちも成仏できるだろう。
「それにしても吉野。お前よくそんだけケーキだけバクバク、バクバク食えるよな?」
「全然平気だよ? これすごくおいしいもん」
「俺、お前が食ってるの見てるだけでもきついわ。胸やけしてきた!」
そういう大智は、お前を見てるとしょっぱいものが欲しくなると云って、ずっと総菜ばかりを食べている。
それらは潤太が落っことしてぐちゃぐちゃにしたやつだ。でも大智は、見た目は悪いが意外にも食感がいい、云ってくれた。
(大智先輩も、なんだかんだと、やさしいんだよなぁ。そりゃ、一緒に居たら好きになるに決まってるよ)
潤太は目があった大智にへへへっ、と笑って見せた。
するとまた、俊明のスマホがカシャっと鳴る。
時刻はまだ三時になったばかりだ。
着替えさせられたり羽交い絞めで脱毛されたときには、いったいどうなることかと心配したが、この分だと残りの時間はたのしく過ごせて、きっといい一日を終えることができるんだろう。
(よかったよかった。すっごくたのしい。ビバ! 恋人。 ビバ! クリスマスーッ!)
目先のことだけで物事を判断する潤太は、慎重に考えたり予測したりすることが大の苦手だ。だからそんな潤太には、これからまたひと騒動がおきるだなんて思いもよらない。
それでまたひとくち、潤太は暢気にケーキをパクリとやって「はうぅ」と吐息を吐いていられたのだ。
*
――なんか、俺、ここ最近、ずっとコイツの尻ぬぐいばっかりだよな。
そんなことを考えながら、大智はロールキャベツの入った皿を浚 えていた。潤太とおそろいでカレー用スプーンを使っているのは、床に落とされたあげくに蹴りつけられたおかずたちが、見事に原型を失っていて、箸で食べられそうになかったからだ。
しかも張本人はケーキばかりを食べていて、こちらについては一口の味見すらしていない。
(自分で選んで買ってきたクセに)
「少しくらい食べたらどうだ?」と促せば、「えー、だって見た目が気持ち悪いもん」と、そんな張り倒したくなるような返事をされた。腹が立ったので、実際にそのまあるい額にウラ拳をいれてやったのだが。
俊明もさほどお腹が減っていないらしく、箸すら持たないで潤太の写真ばかり撮っている。この従兄は温和な雰囲気を持っているので、それでいいように誤解されがちだが、けっこう身勝手で意地が悪い。そしてちょっぴり変態だ。
(だいたい男にそんなもの着せるなよ。確かにそのサンタコスはかわいいけどな。しかもそんなに写真撮って、いったいなに使う気なんだ? …‥って、もちろんナニにかい? ――まぁ、それしかないな。むっつりスケベめ)
自分だって俊明に加担したくせに、それを横に置いて大智は、吉野もご愁傷様だなと心の中で呟いた。
まぁふたりがこんな調子なので、仕方なく大智がさっきからひとりで、ぐちゃぐちゃの総菜を食べていたのだが、これが結構うまい。俺って実はこういう食感が好きだったのか、と、自分の新たな一面を知って感嘆していた大智だった。
そして俊明が用意してくれた料理もちゃんと食べている。せっかく買ってきてくれたり、作ってくれたりしたものだし、もちろん腹も減っていたのでおいしくいただいているのだが、これはこれでちゃんと食べておかないと、俊明の機嫌が悪くなることを大智は熟知している。
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