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第24話

 身体を丸めて泣いていたら、俊明が抱き起してくれる。広い胸に収められて背中をポンポンと叩かれているうちに、まるで自分が子どもみたいだと思ったが、それでもうれしい。 「うん。もう大丈夫。――ひっく」  潤太は単純だった。胸にたくし上げられていたワンピースを降ろすと、目をごしごしと拭いてさっさと涙を止める。ただしゃくりあげることだけは止められなかったが――。  いつまでも抱っこされていては恥ずかしい。潤太は俊明の胸に手をつくと彼から身体をひいた。ただちゃんと後ろを確認しなったせいで――、 「ほら、うしろっ」 「うわっ!」  俊明が手を回してくれたが間にあわず、背後のローテーブルに(したた)かに背中を打ちつけてしまったのだ。 「大丈夫? ぶつけたとこ痛くない?」  机が大きくガタッと揺れたが、幸い上には零れるような料理も飲み物はなくて、潤太は胸を撫でおろす。 「へ、平気です。へへへ」  机には空になった食器のほかには、ケーキが少しだけ残っているだけだった。しかしそれが目に入ったとたん、潤太の目じりにどばっと涙が浮かぶ。 (ケーキが、……ない。先輩、ひどいよ。とってもおいしいケーキだったのに、それをこんなことに使うなんて)  恨めしく白いファーの着いた胸もとに目をやると、涙が一粒ボタッと落ちてスカートに染みをつくる。 (ほんとは俺がぜーんぶ食べたかったのに。ううぅ。なんてもったいないことしちゃうんだ)  しかもだ。大智が電話をすると部屋を出ていってから、まだ十分しかたっていない。そんな短い時間でこんなとんでもない目に遭ってしまうとは――。 (恋人ってたいへんなんだ。さっさとケーキ食べちゃわなきゃ)  潤太は、スプーンを手に取った。 「先輩、俺、もうこれ食べちゃいますね」 「うん。それは、いいけど。……ねぇ、吉野?」 「ふぇ?」  スプーンでケーキを掬おうとしたところを、また邪魔される。脇下に差しこまれた俊明の手によって、潤太は身体ごとくるりと彼のほうを向かされた。 「なっ、なんですかっ⁉」 「ちょっとさっきのとこ、見せてよ」  手際のいい俊明にまたもやワンピースを捲りあげられて、手からぽろっと落ちたスプーンが、べたっと絨毯を汚した。 「あ、あの、あのっ、先輩?」 「ふふふ。吉野、胸のさきっぽ、赤くなって尖ってる」 「ぅわぁっ」  楽しそうに云った俊明に、またそこをぺろっと舐められた。見れば本当に自分のそれは赤く腫れてぷくっと飛びだしている。ふたつの突起をそれぞれの手指で捏ねまわされ、潤太はもがく。 「あんあん」声が出てしまうのを止められない。そしてそんな自分が彼にじっと見つめられていることに気づいた潤太は、両手で顔を覆い隠した。 「やぁだっ、先輩ぃぃっ」 「声、かわいー……」  ふにゃんとなって背後のテーブルに凭れると、テーブルがガンッと大きく揺れた。それでも俊明がそれを気にして悪戯をやめるなんてことはない。潤太の身体がぴくぴくと蠢くたびにテーブルは少しづつ後退していき、そして。 「ゃあんっ‼」  しまいには片側の乳首を齧られた潤太が大きくのけ反った拍子に、肘が机の上の大皿を弾き飛ばしてしまったのだ。 「⁉」 「あっ」  俊明のあげた声に振り返った潤太は、とっさに彼が伸ばした手を摺り抜けた皿が、彼の膝のうえでひっくり返るのを目の当たりにする。潤太にはそれがまるでスローモションのように見えた。 「ぎゃあーーーーっ‼」 「うわっ」  あがった潤太の今日一番の悲鳴に、「びっくりした」と俊明が目を丸くする。 「せんぱい~~~っ! なにしてるんですかっ⁉ ケーキがっ! ケーキがっ‼」 「いや、これは吉野の肘にあたってひっくり返っ……」 「うわぁぁああんっ! 俺のケーキィィッ‼」 「えぇっ?」 「うわぁぁぁぁん! うわぁぁぁんっ! うわぁぁぁぁぁーんっ!」

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