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第32話

(ああ。恥ずかしい)  さぁ、どうする? どうする? 早く家に帰ったほうがいいのかな? でももう少しふたりと一緒にいたいし。でもこのままここにいるとまたエッチな展開になるかもしれないし。……よし。 「じゃ、先輩。ソレ飲んだあと、どっか外に遊びにいきませんか?」 いいアイデアだ。 (ど、どうかな?)   うまく笑えず、ニコッではなくて、ニヘッ、となる。 「その恰好で?」  俊明がちょっと驚いた顔をした。彼にはコレを着替えるという発想がないらしい。 「い、いやいや。もちろん着替えますよ」 「却下」 「却下」 (ああ……)  ふたり揃ってにべもない。 「そんなぁ。だってこんな格好していたら、また先輩たち俺のこと揶揄(からか)ってヘンなことするんじゃないですか?」 「ヘンなことって……。吉野ひどい」  ひどいといいつつ、俊明はクスクス笑っている。 「恰好とか関係ないだろ? つきあっているんならキスぐらい当然だ」 「大智先輩っ! き、き……とか平気でいわないでよっ! それに、き、き……だけじゃなかったクセに」 (なんでそんな大人な会話に持ち込もうとするんだよ)  焦って云い返すも口に出せない単語のせいで、潤太は一部ごにょごにょと口籠ったあげくに俯いた。 「なんだ、吉野、妙にしおらしくなったな。セックスどころかキスも云えなくなったのか? 昨日までチンコチンコ云ってたくせに」 「大智先輩っ。そういうこと云わないでっ!」 「そうだよ、大智。わざわざ口にださなくても」 「手ぇだしとけってか? 云っとくけど俺今日、チュウしかしてねぇぞ。俊明、おまえ、なにしたよ? コイツの胸、触っただろう?」 「誰が教えるか」 (ひぃぃぃぃぃいっっ)  潤太は耳をふさいでブンブン首を振った。このひとたち、ちょっとおかしいよ! 「俺たちまだ高校生なんだよっ? なんでそんなことばっかり云うの⁉ 身体触ったりとかっ、セ、セ、…‥‥とか、まだ早いでしょ! いや、男同士だからセ……とかはないけどっ」 「別にはやくはないだろう? そういうムードになったらすりゃいいんじゃないか?」 「適齢期じゃないかな? 女性はともかく特に男は今くらいからだと思うけど? 僕も吉野も男同士だから丁度いいね」 「……あっ……あ……」  なんで話が通じない? と考えて、いや、違う。自分と彼らとで恋愛における通念に相違があるのだとやっと気づく。でもそう気づいたとしても、潤太にはそれを上手に説明することができそうもない。 「だってだって……、だって、まだはやいもんっ! 高校生だもんっ!」  両手をグーに握りしめて安直に主張してみるが、 「高校生だって最後までやるだろう? まぁみんながみんなじゃないけどさ」 「好きあっていたら年齢とか関係なく、シてもおかしくないよ?」  即効返り討ちだ。 (い、いやぁぁぁっ)  人生でいままでにないほどのアダルトな会話に、潤太の頭のなかも心のなかも混乱でグルグルしだす。 「でもまだデートもしてないしっ、手だって斯波先輩とは一回も繋いでないしっ、それに好きって云ってもらってないしっ――」  セリフの後半部分を俊明に訴え、次に大智を見た潤太は、 「大智先輩とだって、もっとドキドキする時間いっぱいいるもんっ‼」  一気にまくし立てて、フーッフーッとありもしない毛を逆立てた。 「なのにっ、なのにっ! ふたりとも、汚れたおとなだぁぁっ」  力一杯叫んだ潤太は、それからそのまま部屋を飛びだしたのだ。

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