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第35話

「確かにある意味可哀そうだよな、おまえ。頭大丈夫か? 今十二月だぞ? なのにその薄着。文化祭でもあるまいし、なんで男のクセしてミニスカートで外を走り回ってるんだ?」 「も、いいから退いてよっ!」 「あっ、こらまて、潤太っ!」  ぐいっと一也を押しのけた潤太は、隙間をすり抜けて廊下のさきにあるリビングへと飛びこんだ。 「はぁー。あったかいぃぃ。生きかえるぅぅ」  きょろきょろと見渡した部屋の片隅に、潤太はクリスマスツリーを見つけて目を輝かせた。 「わあー、一也くんの部屋にツリーがある! あれすっごくでかくない?」  ソファーに掛けてあった厚手のカーディガンを勝手に着込むと、ローテーブルに用意されている料理とケーキを一瞥して、それから潤太はツリーに駆けていった。隣に並んで背伸びしてみたところ、なんとツリーは自分の身長よりもさらに高く、てっぺんについている星なんて手のひらよりも大きい。  ちなみに潤太のツリーは百四十センチサイズで、飽きずに今年もまたクローゼットから引っ張り出してきて部屋に飾ってある。 「ねぇ、これって一也くんがずっと持ってたやつなの? それとも新しく買った?」  遅れて部屋に入ってきた一也が、いつもながらの潤太の落ち着きのなさに嘆息した。 「察しろよ、潤太。そんな恰好しているくらいなんだから、今日が何の日かわかるだろ?」 「誰か来るからブッシュドノエルがあるの? お友だち? もしかして恋人?」 「来るってか、来ているんだよ。お前いつまでも子どもじゃないんだから……」 「え? だれだれ? 今どこにいるの? 俺、ちゃんとご挨拶するよ?」  あっちの部屋? それともトイレ? と訊ねる潤太はまだまだお子さまなので、来客が入浴中だとは考えつかない。 「すんな。会わなくていい。だから用を済ませて、さっさと帰れ。いったいここになにしに来たんだ? 服もそんなんで財布もないって……。友だちと馬鹿なことやってんじゃないだろうな?」  眉根を寄せて厳しい声になった一也は、実は潤太の通う青陵学園の教員だ。場合によってはこんな日でも潤太と、そして潤太と一緒にハメをはずしている仲間たちを呼び出して指導せざるを得ないのだろう。 「どこで遊んでたんだ? 冬休み始まるまえから問題起こすなよ?」 「大丈夫、大丈夫」  ツリーに興味津々の潤太は適当に一也の話を聞き流す。垂れてくる(はな)すら後回しで、オーナメントのひとつひとつを手にとってしげしげと眺めた。そんな潤太を横目に一端一也が壁向こうにあるキッチンへと姿を消した。暫らくすると甘そうなカカオの香りがしてくる。    「おい、ちゃんと聞け。まさか酒とか飲んでないだろうな? 高校生らしく健全に遊べよ?」  すると潤太は、高校生らしかぬ恋人たちの所業を思いだす。 「……そうだよ」 (高校生なのに。高校生なのに。あ、あんなっ、あんなっ) 「ふたりともめっちゃ不健全!」  顔を上げて叫んだら、洟汁がひと筋たらりと垂れる。潤太は目についたツリーのてっぺんの大きな星を(つつ)きながら、ズズッと洟をすすった。銀細工の透かし彫りのそれはとてもきれいだ。 「星でっけー。ねぇ、これどうしたの? このツリー、俺のツリーよりもおっきいよ?」 「最近買った」 「なんで買ったの? パーティーするから?」 「内緒。それよりもココア入れてやったからこっちに来い」 「もうちょっとあとでいいよ」  自分であったかいものが飲みたいと云ったことも忘れ、そんな勝手ばかりなことを云って、垂れてきた洟をまたズズッとすする。 「光もピカピカー。いいねぇ。すごいねー」  電飾のコードを引っ張ってみると、カラフルな電球がたくさんついてきた。 「あ、このちっちゃい星、たくさんあるから三つだけもらっていい?」 「ダメだ。潤太、勝手するな。それよりもこっちきて洟拭けって――、あっ!」 ツリーの周りをウロウロしていた潤太が、電飾のコードに足を引っかけた。 「うわぁっ」  ガッシャ―ン!

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