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第48話
「やっぱり一也くんの云う通りだ」
潤太はカーディガンの膨らんだポケットから、三つの五芒星を取りだした。ひとつを俊明に、もうひとつは大智の手のひらに載せる。最後のひとつは吊り紐の先を抓んで持った。白銀の小ぶりなそれを、潤太はふたりに揺らして見せる。
「一也くんの家のクリスマスツリーに飾ってあった星だよ」
「これも勝手にとってきたんじゃないだろうな?」
おなじように星を揺らした大智が、潤太に疑いの眼差しを向けた。
「大智先輩ひどい。これはちゃんと一也くんがくれたんですーっ。あのね、三人お揃いだよ?」
思いがけず手にいれた、初めての三人のお揃いだ。その小さな星に潤太があまりにもうれしそうだったせいか、大智はもうそれ以上の水を差さすことはしなかった。そして大切そうに星を握りしめてくれる。
「一也くんがね、三人でお互いにいいところを見つけて、真似して成長していくんだよって。三人で仲良くやれよって云って俺たちにくれたの。斯波先輩も大智先輩もなくさないで、いつまでも持っていてね」
「ありがとう。吉野。大切にするね」
「うん、そうして」
俊明に返事して、大智には「なくしちゃダメだよ?」と念をおす。するとふいに大智の手が潤太のカーディガンへと伸びてきた。彼の指が網目から飛び出ているシャープなコーンを突 く。
「このポケットからはみ出てる、とんがったヤツはなんなんだ?」
「ああ、これはね」
潤太はポケットを探ると、十センチほどの十二面体の星を引っ張りだした。
「これは俺を刺したウニだよ」
潤太はおでこの絆創膏を指さして見せた。
「これもね、ちゃんとオレの理想の星を持てって云って、一也くんがくれたの」
「へぇ。あいつちゃんと教師っぽいこと云うのな」
大智の言葉に「高木先生、人望あるよ」と俊明が返す。
「あぁ、お前の担任だっけ?」
「うん」
「クリスマスツリーのてっぺんに飾る星って、ベツヘルムの星って云うんだって。先輩たち知ってた?」
「ああ。イエスが生まれたときに、その空のうえで輝いたっていう?」
俊明が答えると、潤太はぱっと目を輝かせた。
「やっぱり先輩すごい! でね。イエスは愛と真実の伝達者? でね。つまりベツヘルムは愛と真実が存在する場所だから。――んん? んー」
うまく説明できずに首を捻った潤太は、反対のポケットに入れておいたベツヘルムの星を取りだすとすっくと立ちあがって、それを天井に向けて高く掲げた。
「とにかく!」
俊明と大智の視線がその銀細工の大きな星に移る。
「一也くんが慈愛の気持ちさえ忘れずにいるならば、潤太の好きなように真っ直ぐ突っ走ればいいよって云ってくれたの」
それから潤太は星を胸のまえに持ってくると、想いをこめて俊明と大智を順に見つめた。
「俺はちゃんと斯波先輩だけ見ていくし。ちゃんと大智先輩だけ見ていくよ。んっと、わかるかな?」
うまく云えはしなかったが、これから自分がどんなふうにふたりの恋人に接していこうとしているのか、伝えられたんじゃないだろうか。
「あぁ。吉野の云いたいことはわかったよ。だって僕は吉野がどんな子か知っているからね」
俊明が云えば、大智も湯飲みを片手にちいさく頷いている。
「俺はがんばって先輩たちを、あ、愛していくから、先輩たちも俺にしっかりついてきてね」
さすがに「愛」という言葉を口にするのには照れてしまったが、それでも大切な言葉なんだからと、ちゃんと伝えた。
「だから、だから……。その……」
「なんだ? ハッキリ云えよ?」
「暫らくは、おとなみたいなエッチはなしで、ちゃんと順を追って恋愛していくんです」
真っ赤になって俯いてしまった潤太の頭のうえから、
「それは残念」
と、クスクスと笑う声がして――。
次の瞬間には、潤太の頭は立ちあがった俊明に抱きこまれていた。
「わっ⁉」
顔をあげるとすぐさま頬にキスをされる。
「ひゃあぁっ」
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