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第49話

「僕、吉野のそういうところが気に入っているんだよ。一生懸命なところが好き」  チュッチュ、チュッチュとたくさんキスされる。 「わぁ、せ、先輩っ ちょっと待って!」 「あーっ、もう、かわいいっ。大好きっ」 「ギャーッ、先輩、離してぇ」 「やだっ。もう少しだけ。だって僕、春からずっと吉野にこうするのを我慢してたんだよ? だからあとちょっとだけ許して」 「わぁ、わぁっ」  ちいさな潤太の顔を片手だけで固定して、今度は唇に吸いついてくる。必死にもがく潤太にはわからなかったが、なんと俊明のもう片方の手は潤太のお尻を掴んでその感触を楽しんでいたようだ。 「おい、こらっ。俊! そのいやらしい手ぇ、放せ!」 「先輩っ、もうおしまいだって! だめだよぉぉ」  潤太はついに頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。 「だから高校生はもっと軽いヤツで! 大人のキス、だめっ‼」  涙を滲ませ訴えれば、「かわいくて死にそう」と俊明が大笑いする。潤太にとって俊明のこういったはしゃいだ姿は、まだ見慣れぬものだった。  潤太は青陵に入学してすぐに、この彼に恋をしたのだ。潤太のはじめての恋だった。  それから毎日、彼が自分の恋人になったならどんなことをしようかと夢みて過ごしていた。  学校では一緒にお弁当を食べたり、どこか人気(ひとけ)のないところを探していちゃいちゃしたり、放課後は待ち合わせをして一緒に帰ったり。  通学路では誰にも見られていないところで手だって繋ぎたいし、そっと唇を触れ合わせたりもして。そしてそして、気持ちが高まることがあったなら、ぎゅうっと抱きしめあうことだってあるのだろう、と。  潤太が想像をしていたのはそういったふんわりと甘いものだった。  しかし現実はまったく違っていて。  潤太が大智にされた初めてのキスはとても深く、身体の奥から官能を呼び起こされるものだった。しかもしょっぱなから素肌を(まさぐ)られたりもして。 (あぁ、俺ってなんてお子さまだったんだろう)  潤太はキスがあんなものだったとはついぞ知らなかった。よもや恋愛においてはハグよりキスのほうが、段階が上位だったとは。  恋愛をするには相手が必要で、その彼らにもやはり理想があったのだ。そしてそれは自分のものとはおおきく異なっていた。  彼らからしてみると潤太のそれは子どものままごとのようなもので、納得しがたいのだろう。でも稚拙な潤太が間違っているわけでもなく、また早熟な恋人たちが悪いわけでもない。  だから潤太は自分の偏っていた理想にそうそうに見切りをつけることにした。もちろん自分が夢に見ていたおつきあいも捨てがたいが、恋人たちがよろこぶのなら彼らの求めにも応じていきたい。そんなふうに潤太の心はすんなりと変化を遂げていた。  そして潤太だけでなく、どうやら恋人たちの心境にも変化はあったようで……。 「そういうことだから、大智、吉野に強引に迫ったりするなよ」 「俺よりお前のほうがはやまりそうだけどな。とりあえずはお互い受験に専念しよう」 「それは先が長いね……」  ほら、これがベツヘルムの星の力。お互いの極端な差異に云い分があったとしても、それらが上手にすり合わされていく。  一時間足らず過ごした一也の部屋で、潤太は素敵なスキルを手に入れただけでなく、いろんなものをもらっていた。  星型のオーナメント、厚手のカーディガン、ダッフルコートにチョコレートのケーキ。それらを視界に認めたとき、潤太ははじめこの部屋に訪れたときよりも、数段も心強くなれていた。  それらもまたベツヘルムの星の力。一也から自分へと、ふんだんに注ぎこまれている愛だろう。 (そういえば、一也くんは恋人とどんなクリスマスを過ごすのかな?)  大概お邪魔虫をしてきたというのに、潤太にはその自覚はない。 (大人なんだから、きっと大人たちがすることをするんだろうな……)  未成年が致してはならない想像不可なあれやこれやを、一也と彼の恋人はいまごろあのマンションで行っているのかと想像してしまい、顔を火照らせる。

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