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第47話
「でね、かわいい恰好で告白しようって思って。いつも兄ちゃんが青陵の女子の制服は、ほかの誰が着るよりも潤太がいちばんかわいく着こなすはずだって云ってるから、だから着てみたんだ」
「その制服はいったいどうしたの?」
「保健室で借りた。先輩、保健室に予備の制服があるの知ってた? で、ちゃんと似合っているか大智先輩に確認してもらったの。実際になかなか似合っていたんだよ?」
「だよね?」と大智に同意をもとめると、彼は潤太から目を反らして「知らね」とぼやいた。
それでも俊明に、
「そうかもね。僕も見たかったな」
と云われて、潤太は気をよくする。
「でね、すぐに『可愛い下級生に待ちぶせられてドキッとする作戦!』を決行したんだけど、これも結局は失敗しちゃったんだよ」
「ね、大智先輩?」と、また彼に話を振ると、大智はなんとも不愉快そうに湯飲み口をつけた。潤太もそれに釣られるようにして、ほどよく冷めてきたお茶をズズッと啜る。
「あれがうまくいっていたら一カ月はやく、先輩とのおつきあいがスタートしていたかもしれないね」
「そうかもしれないね。でも、じゃあ、どうしてうまくいかなかったの? 僕のところに来てないよね?」
「それがさぁ。スカート姿で先輩を公園の茂みで待ち伏せていたらさ」
「吉野、それまるで変質者みたいだね」
「ううん、ちがうよ。変質者は別にいてね、なんか俺、女の子と間違われて襲われちゃったんだよ。最悪。ちゃんと逃げたけどね! で、先輩を待ち伏せするどころじゃなくなったんだ」
「……へぇ。それでヘンタイさんも、ね……」
相づちをうつ俊明の表情が引き攣っていることに、潤太はまったく気づかない。
「俺、可愛すぎて失敗しちゃったんだよ? ね、大智先輩?」
と、湯呑を揺らしながら小首を傾げると、
「お前はまったく反省してないな」
と、ムッとした大智にペシッと頭を叩かれた。
「いてっ。もぅ、そんな叩かないでよっ」
「うっせ。たいして力入れてないだろ?」
「もうっ」と大智に腕を振り上げたところで、潤太は俊明に名まえを呼ばれた。潤太の両腕を掴んだ彼は真面目な顔つきだ。
「吉野、もう僕のまえ以外では、絶対にスカート穿 かないでね」
潤太はきょとんとして、それからパチパチと瞬 きした。
「こら、俊。お前自分のことだけ云うなよな」
大智が俊明の身勝手な発言を窘 めるが、しかし彼は反省した様子もなく軽く肩を竦めただけだった。潤太はそんなふたりに向かって宣言する。
「大丈夫だよ、ふたりとも。スカート穿いたって碌 なことにならないんだから。俺、もう一生あんなものは穿いたりしない!」
「なに云ってんだ? お前がいま着てるのはなんなんだよ? それもスカートじゃないのか? 俊明にまんまと乗せられやがって。ほんとバカだな」
「まんまと乗せるとか、失敬な」
呆れた大智に俊明が返す。潤太は「はっ! そうだった!」と口に両手を当てた。そうなのだ。今日だって大変な目にあったんだ。ブカブカのカーディガンから伸びた脚に目を遣ると、たくさんの傷とぺったぺったと貼られた絆創膏がある。
「しかもスカート、防御力ゼロ!」
やっぱり女子の制服って見なおしたほうがいいんじゃないかな、といつぞやとおなじ見解になりかけて、いまはそんな場合じゃなかったと、はたとして潤太は俊明を見た。
「これでわかった? 先輩、俺うまく説明できた? ちゃんとわかってくれた?」
(これで正解? ちゃんと先輩に俺の気持ちは伝わった?)
「うん。そういうことだったんだね。女子の制服かぁ。見られなくて残念だったかな。でも僕に気に入ってもらおうとして、吉野がそこまでしてくれていたっていうことがとてもうれしいな」
「へへへ」
俊明に微笑まれて、潤太もお得意の笑顔になる。見つめ合うふたりに、今回は大智の「俺の前でいちゃつくな」というセリフも飛んでこない。
(うまくできているからなのかな?)
ここを飛びだすまえにこの部屋ですっかりへしゃげられてしまっていた自信が、元気を取り戻していく。
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