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第40話

「あれいらないの⁉」  ロシアの民芸品である大小二十体ほどの人形は、楽しく過ごしているように見えるように、潤太が絶妙な配置をしてあるのだ。それを持って帰れだと?  ガ――ン! 「なんで、なんで? 独り暮らしが寂しいと思って、せっかく持ってきてあげたのに。あっ! そっか。一也くんもう恋人ができたから、寂しくなくなっちゃった?」 「あのなぁ。そうじゃなくて。あんなのはまったく俺の趣味じゃないんだよ」 「でもさ、この部屋地味だから」 「目にうるさいし、ホコリかぶって掃除が面倒なんだよ。そういう手間は、俺は嫌いだ」  潤太がぶすっと膨れると、彼は「潤太が俺のことを思ってしてくれたってのはうれしいんだぞ? それでもう満足」と云って、やさしく頭を撫でてきた。 「だから今度来たときでいいから、持って帰ってくれよ?」 「えぇ~。そんなの嫌だ」 「でないと、捨てるぞ」 「ひどっ」  潤太はうるっと瞳に涙を滲ませた。 「ほら、こういうところなんだよ。潤太は相手の好みや、持っている価値感を推しはかるのが下手」 「うん。チャッピー、ダメだったらしいよ……。絶対よろこんでもらえるって思ってたのに」 「だからさぁ、サプライズって、むづかしいんだよ」 「俺、サプライズ大好きなのに」  潤太が「はぁっ」と肩を落とした隣で、なぜか一也も一緒になって「はぁ……」と溜息をついていた。しかも彼の溜息のほうが大きいので、潤太はどうしちゃったのだろうかと、小首を傾げる。 「まぁ、そんな感じでやってるうちに、どんどん相手のもつ平等感からかけ離れていくってわけ。わかるだろ? だからさぁ、潤太の場合は、みんなに直接気持ちや希望を訊いたほうがいいかもな」  「そっかぁ。じゃあやっぱり一日でもはやく先輩たちに、好きなことや好きなものを訊いておかないと!」  偶然にもそれは、今朝潤太が電車のなかで口にした言葉とおなじだった。 「あぁあ。ムックやあっちゅんは文句なんて云わないのにねぇ。人間ってホント手がかかる」  お気に入りのぬいぐるみを引き合いにだして唇を尖らせる。 「それにしても、高校生にもなってケンカかぁ。えらく幼稚な友だちだな? まぁ潤太のツレならそんなもんか?」 「幼稚とかじゃないよっ。ふたりとも頭もいいし、しかっかりしてるもん。俺なんかとは大違い」 「そいつら中等部からの持ちあがりか? 内部進学の女子がな、よくそういうので揉めるんだよ」 「へぇ、なんで?」 「大抵の公立では小学校から公立中学校に進学するときに、ふたつの学校の児童が一緒になるだろ? で、生まれた新しい交友関係が原因で、小学校からの友だち同士でケンカになるんだよ」 「なんでケンカになるの?」 「グループのうちのだれかが、新しい友だちをつくって仲良くしだすとするだろ? そしたらそれを裏切りだどうのって云いだす。それでもそれでケンカしたり、仲直りしたりしなかったりしているうちに、まぁ、とりあえずみんな経験値あげてひとつ成長するんだ。中学生のうちにな」 「ふぅ~ん」 「でもウチの中等部の子らは、学園に入学したときはみんなが対等に初対面だからな。そういったトラブルがないんだよ。で、イザコザは内部進学した高校生活でおこるってわけ。よく外部入学組のヤツらと仲良くなった子が、もとの仲良しグループにいじめられたりしてる。指導するとな、そいつらはそれこそさっき潤太が云ってたみたいに、自分よりあっちのほうが好きなんでしょ、とか云いだすの。旅行のみやげひとつでも大モメだよ」

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