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【1987/11 Lost childhood】
《第二週 木曜日》
昨日は雨降りで寒かった。
今日は晴れてるけど、あんまり暖かくない。
日が当たるとこは暖かいんだろうけど。
もう日が当たる場所まで動くのも面倒で何日も動いていない。
今日は何月何日なんだろう。
最後に食べたり飲んだりしたのはいつだったかな。
トイレに行く必要もなくて、目が覚めたら本を読んで、暗くなったり眠くなったら眠るだけ。
起きていられる時間も減ってきたし、ぼんやりして本を読むのもつらくなってきた。
へんに心臓がバクバクするときがあってこわい。
いつからこの部屋にこもっているんだっけ。
最初はドラえもんになったみたいで楽しかったけど、押し入れで寝るのも飽きてきたな。
ぼくはこの半年で、本ではわからないいろいろなことを知った。
大事にしていても奪われて突然なくしてしまうことがあるということ。
どんなに大好きでも、人はずっと一緒にはいられないということ。
いつもどおり昨日の続きとしての今日が来るわけじゃないこと。
人は本当に必要なときほど助けてはくれないということ。
誰もが何かを奪い奪われて生きているということ。
神様なんかどこにもいないということ。
おんなのひとはこわいということ。
何度もうちに学校の先生がわざわざ来るから、へんに気を遣ってお母さんが「練習のつもりで行ってみたら」なんて先生の前で言っちゃったから、しょうがなく行ったけど、やっぱり遠足なんか行かなければよかった。
修学旅行だって行く気なかったのに。
あの日家にいれば、お母さんのこと守ってあげられたのに。
お父さんがいればもっとよかったのに。
お父さん、ぼくたちのこと嫌いになったのかな。
今頃どこでどうしているんだろう。
なんで出て行っちゃったのかな。
もう帰ってこないのかな。
考えてると悲しくなってきた。
だめだ、何も考えるな。
いちど涙が出始めると止まらなくなってしまう。
日も短いし、今日はそろそろ寝よう。
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