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【2020/05 業】③
《第二週 金曜日 早朝》
早々にハルくんの家を出て、仕事部屋に来た。
貴重な睡眠時間をかなり奪ってしまった。奪っておいてなんだが、せめて昼くらいまでゆっくり寝ててほしい。
ハルくんちで充電していなかったので、電子機器を充電ケーブルに繋いだ。南からの通知が来ているが確認は後にして、いつもどおり儀式のような食事をこなす。
摂取し終わり、執務スペースの机に向かい、キャビネットの最上段を引き出すと、1枚の写真がある。あの日の帰り、飯野さんから、あの子供時代の長谷の、母親と写っている写真を預かったのだ。
「飯野さん、これ、焼き増しておれに一枚もらえませんか」
「えぇ…そりゃまずいよ…こんなんもらってどうすんの」
「どうって、別にどうもしませんよ…オカズにしようとか思ってませんて」
「や、絶対思ってるでしょ」
「思ってないですって」
「でもまあ、実際、これ、長谷に返すにも返せなくてどうしようかと思ってたんだよな」
「返せない?なんでです?見学終わって署に戻ってきたら返してあげたらいいじゃないですか」
「簡単にそうもできないよ、さっき話しただろ…可哀想だろ、今更親のこと思い出させるのも」
「じゃあ、とりあえず署内に置いとくのもアレじゃないですか?おれに預けません?」
交渉は成立し、写真を手に入れた。
この写真の長谷は何年生くらいなんだろう。腕や脚部が太くて、手足が大きくて、目が爛々としている。但、試合の動画で見たときのような鋭さはまだこの写真にはない。
雰囲気が、今の、最初に来たときの印象にすごく近い。どこか眩しそうに見えるカマボコ型のやさしい目。広角がキュッと上がった柔らかそうな唇。ほんのり色づいた頬。そばかす。
母親との身長を比較すると、もともと平均的な子よりは大きかったんだろうとは思う。実際はまだ競技の世界にはおらず、性的なことにも関心ないような、本当に幼い時の写真なのかもしれない。
眺めているとドアをノックする音がして、急いで写真を仕舞った。
「どちら様ですか」
「おはようございます、長谷です」
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